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ファーストファーム株式会社  蓑和 章 代表取締役



郷土愛を農業の夢に代えて

「どうです。これだけのすばらしいロケーション!上越市ではここ以外にはないですよ」と蓑和章社長は話す。妙高の山並みや日本海、よく晴れていれば能登半島も見渡せる。ファーストファーム(株)の目玉「ファーミーランド」は上越市街からの30分くらいの距離にあり、標高150m、道路も整備され、近隣に観光ぶどう園もある恵まれた場所だ。  
しかしこの土地は、畜産会社が撤退し、草地が相当以前から荒れていた。「地域活性化、コミュニティづくりが叫ばれている今、この土地を何とか活用したい」と考えていたが、蓑和氏は(株)蓑和土建の跡取り。農地は農業者でないと利用できないということは十分わかっており、希望を実現できずにいた。  
平成15年、たまたま、特区制度の存在を知り、地元の旅館業、土地家屋調査士、酒造業、農畜産業の仲間に農業の会社興しを働きかけした。8月の半ばに土地のリースの内諾を得て9月、急遽1週間くらいで5人で会社を立ち上げた。「この土地を”癒し”効果のある観光の目玉にしたい。周辺でも、農地の荒廃、高齢化が現実として目に見えており、『耕作放棄』というより耕作を『断念』せざるを得ない土地がだんだん増えてきた。地域の土地を何とか維持したい、自然災害の防止にもつながるのではないか」として田んぼも預かった。


動物に癒し効果を求めて

この牧場を使っては、癒し効果のある動物を使ったアニマルセラピーを考えた。最初はポニーの乗馬をメインに考えたが、山羊の方が扱いやすく、収益性の点からも、山羊を中心にした。牧場の体験、山羊乳加工をメインに行っており、現在の規模は山羊38頭、羊16頭、ポニー4頭、ロバ1頭など。  
米は当初から酒米専門。「五百万石」、「越端麗」(こしたんれい)の2種を栽培している。作付面積4haは当初の約2倍以上であり、まだまだ増える可能性がある。作業効率を考えると、早稲、晩稲品種の2種類を作っていた方がいい。会社立ち上げのメンバーに酒造会社の経営者がいて、そこでオリジナルの酒を作ってもらうことになった。新潟県は酒米が不足しており、地元の米を作った特徴ある酒造りを考えている酒屋も多く、まだかなり米を作っても消化できると見込むとともに、どぶろくではなく、清酒、しかも最初から吟醸酒または大吟醸酒を造ろうと考えていた。  
今後、借り受ける田んぼはまだ増えていく可能性があるが、参入当初は効率の悪い田んぼが多かった。初めてでもあったし「ここはどうですか」と言われて借りたようなところもあって、やむを得なかった面もある。しかし、ここ2〜3年は効率性のよいところ、1団地、1ha以上のまとまったところが多くなっており、そうしたところを借りるようにしている。水の便のよいところ、道のよいところ、1団地まとまったところであれば、たとえ未整備、棚田、天水田のところであっても参入するようにしている。
山羊は一気に生産拡大ができない点が難しいと言う。全量搾乳してアイスクリーム、山羊乳、バターなどの加工に回す。今後さらにチーズ、ヨーグルトを加え、山羊乳製品の一応のラインアップは揃う。山羊は全国的に少なく、まだ知名度が低いので、移動販売車を今年から稼働させて、少しでも多くの消費者に味わってもらい、味や健康面での良さについてわかってもらうことがまず先決。それからいろいろなところへ販売していきたい。


地域に住んでいるからこそ


従業員は全員会社採用で、蓑和土建からの派遣、出向等は一切ない。建設業がひまなときはリフレッシュ効果も考えて仕事をさせることがあるが、労力的な応援はない。  
米作りが安定するまで3年かかった。田んぼのくせが2作目でやっとわかったくらい。最初は公社から持ち込まれた田んぼだけを借りていたが、最近は、直接農家から話が来ることもある。その場合は、現場を見て「やれそうだ」というときは、公社につないで借りている。これまでに、地主は、60団地、筆数90筆超、4集落10人にまで広がっている。個々の契約が面倒だとは感じないが、小作料の支払いは公社に任せている。  賃料の水準は、標準小作料額で払っているが、中山間未整備田で1万円(整備田1万4千円、平場2万円)は経費的に高いと感じるので、「考えてもらいたいものだ」とあえて注文も!「標準小作料はあくまで標準であり、実際にはゼロまでありうる」と蓑和社長は冷静に分析する。なかには、小作料をふっかけてくるところも出てきたと言う。割に合わない話であり、公社にも「悪しき前例を作るな」と苦情を述べたことがある。  
こうしたことを平気で話されるのも、地域に住み、地域を理解している強みだろうか?蓑和社長はこんな話もしてくれた。  
「このへんは純朴な人が多いんです。荒らさないで維持してもらうのをありがたいという気持ちの方が多い。ただ、集落の中であの法人に貸したから周りがこうだと言われるのがこわい。集落に入って話を聞くと、『浦川原には参入法人が2社あり、体が続く限り自分で耕作して、だめになればどちらかの業者に面倒をみてもらえる』という安心感も生まれているようだ。農業も儲かるのであれば、早めに退職して家の農業に入って続けるのだろうが、そういう踏ん切りはあるのだろう、、、、」  
預けたいという希望は増えてくるだろう。田んぼはまだ増やしたい。せめて7ha以上はないと人員と機械からみて効率が悪い。一生懸命集めなくても増えていく可能性はある。頼まれれば、「いっぱいだから預かれません」というわけにもいかない。その人たちも何とか維持していきたいという思いがあるのだ。  
「今やっている事業がよかったのかどうか?まだ成果もみえないし、ただ無我夢中でやっているところ。一つのアグリビジネスモデルになればいい。特区ということで、かなりマスコミ関係でも取り上げてくれた。異業種5人、信頼・人望の厚い人が集まって立ち上げたということで、地域の信頼も得られている。」そう話す蓑和社長からは、地域を愛する思いと若い頃からの夢が、頸城地方の里山の風景と重なって見えてくる。

 

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