有機栽培に取り組む地元の優れた契約農家の米を原料にしたお酒が高い評価を受け、平成5年に全国を襲った大冷害時にもほとんど影響を受けなかったことに感銘。以降、農業や米に強い関心をもち、町やJA、普及所、生産者らと共同で、酒米確保に取り組んできた。当初、農業生産法人の要件取得も考えたが、要件充足が困難なところから、特区により農業参入した。日本酒に使う酒米の一部を農薬や化学肥料をできるだけ使わない環境保全型農法にこだわり、生産の履歴がつかめる「顔の見える」安心安全な米を使ったお酒をお客様へ提供したいとの想いで取組みを進めてきた。
農と食のマッチングを強みに
商品に対する反応は消費者側に立って、見る必要がある。消費者は自分の消費する商品のトレースをしたくなるもの。お酒も造り方や作り手の情報は知られていたが、原料の生い立ちや生産者に関する情報まで欲しがられる時代になってきている。この点で、一ノ蔵が、「自らをはっきり主張できることは商品の強みにつながっている」と櫻井武寛会長は話す。最近は原料まで見える商品づくりを行っており、原料供給の側に立った行動パターンは、お客様に理解されるのに役立っていると言える。地域の農家からは、自分の農産物を一ノ蔵で売ってくれないか、との相談を受ける。一ノ蔵ブランドを米や他の農産物に活かせないかは、今後の構想にはあるそうだ。
3万6千俵の自信
「今後は面的集積の拡大が課題」だと櫻井会長は話す。「一ノ蔵はきちんとやってくれている」−農地の出し手農家からも他の農家からも評価は高まっている。地元住民を巻き込んだ様々なイベント活動にも取り組んでおり、地元でいろいろな形で信用力が増している。この信用力を背景にしながら地元の方と話し合いながら、面的集積を図っていきたい。農地を集積した場合、60kg入り36,000俵の米を使っているという大きな強みを持って、農業のインフラ整備や経営改善にも寄与しており、農産物の出口も引き受けられる。それを強みにして、いい酒造りに活かしていきたい。具体的目標は当初予定した20haの達成に向けてやっていきたいが、今の契約栽培の70haも今後そのまま確保できるかどうか難しくなりつつある。契約者の中で今後リタイア等が出てくれば、酒米研究会のメンバーとの共同事業などで取り組んでいかねばならないと考える自分たちの意思だけでなく、地域との話し合いを重ねながら解決を図っていきたい。
最終的には農業部門で採算性の確保が目標だという。現在はまだ投資段階で、数字上の収益はあがってはいないが、農業を通じた人脈の形成や、それを通じた商品販売力の向上、原料に対する社内の意識改革など、得られた「他の収益」も大きいが最終的には農業での収支を合わせることにあるので、それを目指してやっていきたい。
(株)一ノ蔵の農業経営データ
生産品目と規模 |
水稲4.2ha |
従業員 |
農業担当役員1名、社員3名(繁忙期は社員研修の一環として他の部門の従業員も従事) |
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