連載企画
スイス農業のいま【2】

輸出の主役・チーズ

 日本農業の主役が米だとすれば、農家の7割が酪農を営んでいるスイス農業の中心はミルク、中でもそれを加工したチーズだ。国民の毎度の食卓に添えられ、スイス料理で真っ先に思い浮かぶのも、やはりチーズをたっぷり溶かし込んだチーズフォンデュだろう。

 チーズは「輸出の蒸気機関車」と言われ、スイス経済を力強く引っ張っている。日本にも商品を供給する「エミー」のような大企業もあるが、むしろ中心は、各地方で独自の製法を受け継ぐ中小規模の作り手たち。個性豊かな製品でチーズ文化に彩りを添えている。

 スイス南部のレンク市で酪農を営むニクラウス・グフェラーさん(35)は、標高1,600メートルの山岳部で20ヘクタールの牧草地に13頭の搾乳牛を放牧している。生乳も出荷するが最も力を入れているのが手作りチーズの直売だ。

 自慢のチーズは、牧場内にある小さな作業小屋で作られる。設備は簡単なもので、銅製の大釜が部屋の真ん中に据えられているだけだ。釜に入れた牛乳を一定の温度にしながら酵素を加えると、次第にチーズの固まりが姿を現してくる。これを円盤状に整型し、表面に塩水で磨きをかけながら熟成が進むのを待つ。

 グフェラー農場のチーズ作りは春から6月下旬まで。標高1,000メートル以上の地域で作られたチーズは、政府からアルプ(山岳)チーズとしての認証が受けられ、販売のブランド力となる。直売でキロ当たり24フラン(約2,100円)の値を付け、ほとんどを直売で売り切る。「もっと標高がある所なら、もう一つ上の認証を受けられるんだけど」とニクラウスさん。条件不利な高地ほど、販売には有利なことを実感している。

 個人の生産者のほか、市町村レベルの乳業メーカーもたくさんある。前出のグフェラー農場も生乳を出荷するレンクミルクAG社は98年の設立。地域一帯からの集乳で、年間550トンのチーズを生産する。工場内には熟成中のチーズが発する強いアンモニア臭が漂う。

 同社の出資比率は農家8割、地元企業1割。残り1割がこの地域にある別荘のオーナーたちだ。「酪農業を支えることは美しい景観を守ること。それは自分の土地の資産価値につながると、彼らは考えているのです」と同社のダニエル・エルニ代表はこう説明する。チーズ=酪農業は、観光立国スイスの存立にも深く関わっている。

(2005/10/28)


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