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どうする!? 農地の杭問題 畑の集積・集約化、効率改善に足かせ

 畑の集積・集約化を進める中で厄介なのが、農地の境界を示す杭(くい)や空木(うつぎ)の存在だ。抜けたり壊れたりすれば復元に多額の費用がかかるため、よけて作業しなければならない。せっかく複数筆をまとめても、作業効率改善の足かせになると問題視する声が高まっている。この課題を待ったなしと捉え、対策に乗り出す農業委員会も登場。国も技術開発の面からサポートを開始した。

 境界杭問題に独自の対策を打ち出したのが、茨城県の茨城町農業委員会(箭原和敏会長)だ。農地の集積・集約化のために境界杭を取り除く必要がある場合、その復元に要する費用を助成する事業を2017年度から始めた。現在、二つのモデル地区で事業を進める。
 モデル地区の一つ長岡地区では29筆の畑を1.7ヘクタールの1枚にまとめた。19筆は耕作放棄地で、10年以上放置されてほぼ山林化していた農地もあった。今は、地区内の一部農地で耕作していた農業委員の杉浦一雄さん(67)がサツマイモを作付けている。「本当にいい畑に生き返った」と杉浦さんは笑みを見せる。
 撤去した杭や空木は50本以上に及ぶ。撤去前に公図を基に境界杭の座標値を示す図面を作成し、貸借終了後に復元しやすくするのが事業の流れ。図面作成に必要な調査経費や杭の設置費などの2分の1を町が助成する。本来は杭1本を戻すのに1万5千円ほどかかり、杉浦さんが60万円近く負担するところを30万円ほどに抑えられると見込む。
 利用権の調整には杉浦さんと同地区の農地利用最適化推進委員・木村順さん(67)のペアが奔走した。29人の地権者を戸別訪問し、今後の利用意向を確認しながら説得。4カ月かけて16人から同意を取得し、2017年10月に農地中間管理機構を通して利用権を設定した。杉浦さんは「間に農業委員会が入ったことで相対よりも安心感を持ってもらえた。行政の力がなければ実現できなかった」と振り返る。
 「命の次に大切な杭をよく抜けたね」。他県から視察を受け入れた際に言われた言葉だ。財産である土地の境界杭を抜くことに抵抗がある地権者は多く、説得は一筋縄ではいかなかった。実際、同意を得られなかった農地も多い。
 ただ、整備された畑を目の当たりにした隣接農地の地権者から「うちもやってほしい」との申し出も出始めている。箭原会長(62)は「1カ所でもきれいになれば周囲へのアピールになる。とにかくできるところから動いていかなければ」と使命感を燃やす。
 国は2023年度までに、担い手への農地集積率を全国で80%まで高める目標を掲げている。かねてから各地の研修会などで境界杭問題を訴えていた同県東海村農業委員会の澤畑佳夫・前事務局長は「田は境界の部分を畦畔にするなどの対策ができるが、畑の集積・集約化をさらに進めるなら杭の問題は避けられない」と話す。
 現場の訴えに応え、国も対策に乗り出している。農水省の農林水産技術会議事務局は本年度から、ドローンを活用して圃場境界の測量作業などを円滑化する技術の開発を始めた。位置情報と人工知能(AI)による画像解析を駆使し、境界の再確定や測量図の作成などを支援するものだ。2022年度までに、調査・作業時間を半減できる手法の確立を目指す。
 同省農地政策課・経営専門官の梅島悠さんは「杭の復元では測量にかかる費用や手間が最大のネック。これをいかに抑えるかが課題だ」と話す。同技術会議事務局によると、費用も人力による測量より低減が期待できるという。現在、(株)オプティムが佐賀県内の関係農業団体や佐賀市と共同で研究を進めている。
 梅島さんは「復元しやすくなったとしても、それだけでは杭を抜きたくないという地権者をゼロにするのは難しいと思う。農業委員や推進委員には、こうした地権者の感情をうまくほぐしながら地域の話し合いをリードしていってほしい」と期待を込める。

写真説明=「農地集約によって景観もよくなり、住民からは好反応。事業にチャレンジしてよかった」と杉浦さん

 [2018-11-2]