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これからの働き方と人材育成(1) 農業も働き方改革を

 2019年4月、働き方改革関連法が施行された。高齢化が進み人手が減る中、職場環境の整備は大切なテーマとなっている。人の育成に目を向けると、農業現場でのノウハウはまだまだ蓄積されていないのではないか。経営者、従業員、親、子、それぞれの立場でどう関わっていくべきか。各地の取り組みを紹介する。

(有)たけもと農場 石川・能美市

 石川県能美市で米・麦・大豆など45ヘクタールを経営する(有)たけもと農場。現社長の祖父にあたる平一さんが米作日本一に輝くなど、江戸時代から続く伝統ある米農家。竹本彰吾社長(36)は父の竹本敏晴会長(67)から受け取った「事業承継10年計画」が自らの育成につながったと振り返る。
 この計画は、最初の3年間で基礎となる農業技術、次の3年で経営の数字や販売を学ぶ。最後の4年は社長業を当時社長だった敏晴会長と2人で並走し、新規の借り入れや地主との交渉もしていく、というものだ。大学時代に敏晴会長と農研機構の研究者と3人で相談して作り上げた。親子間に第三者の視点が入ったことで冷静に事業承継に向き合えた。
 良かったのは、始めから10年で承継することが分かっていたこと。就農から数年たち、自ら動かないと承継が間に合わないと感じるようになった。4年目にイタリア米「カルナローリ」の栽培に挑戦。地元レストランへの販売も決まった。商談会には自ら参加し、売り先も増えていった。今では7ヘクタールで栽培し、イタリア米の生産量は日本一だ。
 3年前に経営を承継し、社長に就任。今は従業員3人を育成する立場となった。自身の経験から、従業員には自ら考え動く人になってほしいと考える。
 5年前から、トヨタ自動車の指導を受けながら「小集団活動」を始めた。従業員だけでグループを作り、どうすれば仕事が良くなるかをみんなで話し合うもの。自主的に考えることで、普段している作業の意味を自ら確認するようになった。課題となっていた技術の承継も感覚やコツを持つ会長に聞きに行く機会が増えた。社員同士のコミュニケーションも活発になった。
 彰吾社長には印象に残っている出来事がある。農家の長男に生まれ、いつかは継ぐことと考えていた高校時代。初めて敏晴会長と2人で進路について話し合った。「農業とは農作業をすることではない。うちには顧客がいて、地主がいて、農業者の仲間がいる。その人たちの期待に応えることが仕事だ。この仕事には多くの人の期待に応えられる魅力がある」と伝えられ、その場で就農を決意した。
 彰吾社長は「代々培ってきた顧客や周囲の信頼を大切に、新たな事業に取り組むことが親元就農者の使命。自身も成長しながら次世代につなげていきたい」と話す。

写真上=たけもと農場のみなさん。技術を学ぶため敏晴会長(右から3人目)とのコミュニケーションも活発になったという彰吾社長(左から2人目)


服部農園(有) 愛知・大口町

 「十年後、百年後、この町にこの景色を残したい」
 工場誘致や都市化の進む地域で水稲90ヘクタール、大麦45ヘクタールを経営する服部農園(有)が掲げるビジョンだ。服部忠社長(45)は13人いる正社員の育成に力を入れている。「この町に百年後も農業経営を残したい。そのために次の世代を担う人を育てることが必要だ」と話す。
 人材育成に力を入れたきっかけは2014年。米価の下落で、収量や品質は良かったのにもかかわらず、赤字になった。固定費を抑えるためにまず目を付けたのが人件費。削るのではなく、人の能力を最大限に引き出し、生かすことを考えた。
 特徴的な研修は、講師を呼んで経営研修マネージメントゲームを年2回主催していること。従業員が全員参加するほか、農外企業の経営者や従業員、若手農業者が全国から参加。今までに7回開催し、延べ216人が参加した。この研修はソニーが開発した管理職育成の実践的プログラムで、参加者は製造業の社長になり、会社経営を疑似体験する。社員全員が経営を学ぶことで、同じ目標に向かえる。
 農業未経験者も多く、年に数回、専門家やメーカーに依頼し、技術と知識を深めている。町内の中学校にトイレを借り、社員教育として掃除を行うなどユニークな活動も多い。限られた時間の中で他者と同じ作業に従事する事で自身の行動の癖に気づき、時間内にやり切る力を身に付ける効果があるという。
 社長の妻の都史子さん(46)は会社勤めを経験したのちに生家である同社に戻った。「彼らには仕事より大切なものがある。ここで働いてよかったと思ってもらいたい」と雇用環境の整備に力を入れた。事務所の設置や各種保険の完備、繁忙期であっても休みをとれるようにした。
 従業員との面接は夏、冬、年末の計3回行い、夏は従業員の話を聞くことに徹する。年末には社長との二者面談。今年の振り返りとともに、仕事の中で来年期待していること、身に付けてほしいことを伝えている。
 2018年度全国優良経営体表彰の経営改善部門で農水大臣賞を受賞した。都史子さんは「今まで地域に育ててもらい、ここまで来た。これからは明日を担う農業者を育てることで地域に恩返しをしていきたい」と話す。

写真下=マネージメントゲームには全国から人が集まる

 [2019-5-10]