カテゴリータイトル

農政解説

すべての記事を読む

「所有者不明土地」利活用・防止へ 土地所有の在り方にメス 2020年までに法整備 政府

 農業分野に限らず、所有者不明土地問題は全国的に喫緊の課題となっている。これに歯止めをかけるため、政府は2020年までに所有者不明土地の利活用や発生防止に向けた法整備を展開。いよいよ民法や土地基本法などの見直しにも着手した。土地所有の在り方に切り込むだけに、丁寧な検討が求められる。

円滑利用に道開く 公共利用の新制度も

 約410万ヘクタール。これは、増田寛也・元総務相が率いる民間の研究会が推計した全国の所有者不明土地の面積(2016年時点)だ。実に九州本島の面積に匹敵する。研究会では、対策を講じなければ2040年には約720万ヘクタールまで広がり、所有者探索や公共事業の遅れなどで少なくとも累計6兆円の経済損失が発生するとの試算も弾き出した。
 待ったなしの状況の中、政府は対策の検討に本腰を入れ始めた。第一段階として、既存の所有者不明土地を利活用しやすくする仕組み作りに着手している。
 2018年には「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」が成立。同11月に一部施行し、所有者探索のために行政機関が固定資産課税台帳などを利用することができるようになった。今年6月には、公園などの公共利用のため、自治体などに最長10年間の利用権を設定できる新制度も始まる。
 農地については農業経営基盤強化促進法を改正し、農地中間管理機構を通した第三者利用を実現した。林野では森林経営管理法が新たに始動。共有者の一部が不明でも、一定の手続きで市町村に経営管理権を設定できるようになった。

登記官に調査権限 変則型登記解消へ

 加えて、今国会では氏名や住所などの所有者情報が登記簿に正しく記載されていない「変則型登記」の解消に向けた新法案の成立も目指す。法務局の登記官に所有者特定のための調査権限を与え、特定できない場合には土地の売却もできる制度の創設を目玉とした。
 変則型登記された土地は所有者不明土地全体の5%程度とされる。▽氏名だけで住所の記載がない▽住所が集落名や大字名のみ▽共有者を代表する1人の氏名しか書かれていないなどの例がある。
 法案では登記官の職権で、実地調査や関係者からの聞き取り、地方自治体からの各種台帳などの請求などができるようにするとした。所有者が特定できたら、登記官が登記簿を更新できる決まりも設ける方針。
 特定できなかった場合は、裁判所が所有者に代わる新たな管理者を選任できる制度も創設するとした。管理者は土地の管理の他、裁判所の手続きを経て売却もできるようにする。

登記義務化し抑制 所有権放棄もテーマに

 土地の利用促進に続く第二の策は、新たな所有者不明土地の発生抑制だ。登記制度や土地所有権の在り方、土地所有の基本制度などにメスを入れ、制度見直しを急ぐ。
 法務省は民法と不動産登記法の改正をにらむ。今年2月、山下貴司法相は法制審議会に両法の見直しを諮問。相続登記の義務化や所有権を手放すことができる制度の創設、遺産分割の協議期間の制限などを柱に据えた。法制審での議論を経て、来年の臨時国会での法案提出を見込む。
 所有者不明土地の発生を抑えるには相続未登記問題の解消は避けられない。現行では登記は任意だが、未登記のまま世代を経ると相続人の数は雪だるま式に膨れ上がっていく。
 同省では制度改正によって登記を促して権利関係の複雑化を防ぎ、所有者不明土地の予備軍を減らしたい考えだ。登記義務化については、罰金などのペナルティを視野に入れる。それでも登記をしない場合に備え、登記所が公的機関から死亡情報を取得し、登記情報を更新できる仕組みも検討する。
 長期にわたって遺産分割されないことも所有者探索が滞る原因になるため、登記名義人が死亡した後の相続人同士の話し合いには期限を設けるとした。期限には3年から10年の案が出ており、経過後は自動的に法定通りの取り分にする方向で議論する。
 土地所有権の放棄を認めるかどうかも大きなテーマ。現行の民法では、遠方に住むために土地の管理が難しいなどの場合でも所有権は放棄できない。放棄を認める要件や放棄された土地を管理・活用する受け皿が焦点となりそうだ。放棄を見越した管理怠慢や税逃れなどを招く懸念もあり、制度化へのハードルは高い。憲法が守る個人の財産権に関わるため、慎重な検討が不可欠だ。

 [2019-5-17]