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農政解説

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新任委員に農委会の活動を伝授 マニュアル作り現場で生かす

 昨年末までに8割を超える農業委員会が新体制に移行し、農業委員会改革は、体制整備から「農地利用の最適化」の成果が求められる第2段階に入った。今後は農業委員・農地利用最適化推進委員の現場活動が一層重要性を増すことになる。ただ、委員会活動にまだ不慣れな新任の委員からすると、具体的に何からどのように取り組めばいいのか戸惑うことが多い。そこで、新体制に移行した委員会の中には両委員向けの「マニュアル」を作成し、現場活動に生かしている事例も出てきている。

 島根県の松江市農業委員会(三島進会長)は昨年7月、40ページ建ての「最適化活動マニュアル」を作成した。特徴的なのは、「農地利用の最適化」の取り組みについて、その心構えと詳細な活動のフローチャートなどが記載されている点だ。特に利用調整の実際の流れ、遊休農地の判定基準などが使い手の目線で分かりやすく解説してある。
 企画構成を担当した事務局の荻野智係長は「昨年7月31日に新体制に移行し、農業委員、推進委員の約6割が新任。最適化で成果を出すために、まずはマニュアルで基礎的な知識を身に付けてもらおうと思った」と話す。
 マニュアルは64人の両委員全員に配布。活動の度に読み返すよう呼びかけている。新任の推進委員にとってはまさしく「指南書」。移行後すぐに始まった農地パトロール(利用状況調査)でも、多くの推進委員が携行して、現場で読み返した。
 来待地区の推進委員・石富隆義さん(42)は、初めて農業委員会活動に参画した。認定農業者として、地域の農業は熟知しているが、農地制度などは知らないことばかりだった。「マニュアルには知らなければならないことが書かれているので助かるし、励みにもなる。常に持ち歩くようにしている」と話す。
 同市農委会がこのマニュアルで最も丁寧に触れているのは、担い手へ農地を集積・集約化する活動を進めるに当たっての三つのステップだ。第一ステップは農業者の意向確認。次に集落の話し合いの促進。最後に農地の「出し手」と「受け手」の相談・調整活動だ。
 農地を貸したいという地権者と話す場合に、農地の所在地・面積、今まで作っていたもの、いつからいつまで貸したいか、貸借料はいくらか、借り手に特別な条件を付けるかと確認すべきことを具体的に明示している。
 とはいえ、農業者の意向を聞き取るのは簡単ではない。信頼関係を築くまでには時間もかかる。そこでマニュアルでは「最初は世間話から始めても構いません」と無理をせずに距離を縮めることを勧めている。
 こうした「現場目線」のマニュアルには、農業委員会が蓄積してきたノウハウが凝縮されている。三島会長(70)は「このマニュアルを使っていけば新しい委員でもマッチングができる。現場活動を進める上で必須のツールになるはずだ」と太鼓判を押す。
 同市は多くが中山間地域。農地の集積・集約化は簡単ではない。それでも、委員会が一丸となって3年後には集積率を現行の26%から42%に引き上げる計画を立てている。
 事務局では、地区ごとに活動計画を立て、ステップに応じた働きかけを両委員に求める。特に推進委員には「週1回以上の最適化活動を」と呼びかけている。
 マニュアルの作成によって、滑り出しは順調。成果が上がる時期が前倒しになるのではとの期待が膨らんでいる。

写真上=推進委員はマニュアルを片手に地域を回る


 徳島市農業委員会(川人泰博会長)では、96ページにわたる「農業委員会業務のてびき」が伝統的に受け継がれている。1991年に作成し、改選期に合わせて改訂。農業委員会業務を網羅した教科書として、歴代の農業委員と事務局が愛用してきた。
 伊賀俊雄次長は「総会などの会議にはてびきの携帯を呼びかけている。業務を遂行するうえで欠かせないもの」と話す。
 てびきには委員会の役割・使命から、農地制度、農業税制、農業者年金制度まで幅広い内容を盛り込む。特に、業務の中心となる農地制度は農地法の構成、用語の解説、許可手続きの流れにとどまらず、申請に必要な書類の一覧も添付する。
 入田地区の新任の推進委員・板東美佐緒さん(60)は「必要な情報が1冊にまとまっていて分かりやすい。仕事の合間の時間を使って、少しずつ業務の勉強を続けている」と話す。
 委員会は昨年7月に新体制に移行。これまでの35人体制から農業委員19人と推進委員18人の計37人へと人員を拡充した。
 両委員は地域農家から農地に関する質問を受けた際、まずはてびきを参考に回答を考える。分からないことは事務局へ問い合わせるが、自分で調べられるようにしたことで業務への理解が進んだという。
 委員会では今後、毎年「農地等の利用の最適化の推進に関する指針」を改正し、最適化活動に取り組んでいく。川人会長(73)は「両委員には地域の実情を踏まえて現場活動を盛んにしてほしい。てびきで知識を身に付け、農業委員経験者からも生きた知識や経験を吸収してほしい」と期待を寄せる。

写真下=てびきを教科書にして業務内容の理解を深める(昨年7月28日の総会)


 両委員が一丸となって、現場活動に取り組むためには、活動マニュアルの作成が不可欠だ。松江市のように現場活動の進め方・ノウハウに絞り込んだ内容と、徳島市のように農地法を中心に委員会業務全般について分かりやすく解説したものなど、委員会の実態に応じ、具体的な業務内容を突き詰めたマニュアルを作成して活動を進めることが、農地利用最適化推進への道しるべとなる。

 [2018-1-1]