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農地利用最適化推進委員大臣賞受賞者の取り組み さらなる最適化へ

 改正農業委員会法の施行から間もなく丸3年が経過し、体制移行という第1ステージを終えた農業委員会。迎える第2ステージでは、活発な現場活動によって、農地利用の最適化をさらに前へ進めることが求められている。農地の実態把握、農業者の意向確認、地域の話し合いや農地のマッチングへの積極的な関与――こうした現場活動のキーマンが農地利用最適化推進委員だ。2018年度の農業委員会表彰で農林水産大臣賞を受賞した3人の推進委員から活動のヒントを探る。

 茨城県茨城町長岡地区の住宅街の一角に、29筆を1枚にまとめた1.7ヘクタールのサツマイモ畑が広がる。かつては小さく不整形な農地が集まり、19筆は耕作放棄されて雑木や雑草が生い茂っていた。その集積・集約化に尽力した一人が、同町農業委員会(箭原和敏会長)の推進委員、木村順さん(67)だ。
 地権者への粘り強い働きかけが集積を成功に導く鍵となった。農業委員の杉浦一雄さん(67)と2人で対象区域の地権者を訪ね回り、営農状況や今後の農地の利用意向などをじかに把握。在宅の時間を見計らい、夜間や土日にも足を運んだ。町外の地権者には調査票を郵送し、1カ月かけて29人全員から回答を得た。
 農地の出し手となりそうな地権者には繰り返し訪問し、集積・集約化の必要性を訴えた。「貸したら返ってこないのでは」と心配する声も多かったという。不安を払拭するため、農地中間管理事業や町が独自に進める集積支援の制度などを丁寧に説明。地道な説得を重ねて16人から同意を取得し、2017年10月に農地中間管理機構を通じた担い手への集積が実現した。
 「地域にとってもいい結果となってよかった。自分たちの力だけでなく、農地の受け皿や行政の助けなどさまざまな要因がそろったからこその成果」と振り返る。

 木村さんは「農地を動かすには信頼関係から」をモットーに掲げる。過去に農業委員を2期務めた際、現場を歩く重要性を痛感したからだ。2016年6月に杉浦さんの勧めで推進委員に就いて以来、地元農業者や住民とのコミュニケーションを大切にして現場活動を進めてきた。農業委員の経験から、相談役として他の推進委員からの信望も厚い。
 同町では今後、町一本で策定している人・農地プランを、地域ごとの実情に合った形に見直していく。農業委員会でも各地区で話し合いの場を設けていく方針だ。集落営農の中心メンバーや土地改良区の理事も担う木村さんは、まさに地域のまとめ役。農業委員会事務局も心強い存在として頼りにする。
 他にも、自ら草刈りをして遊休農地の解消に力を入れるなど、さまざまな角度から地域の農地を守る木村さん。「地道にコツコツと、できることから取り組んできた。受賞を起爆剤として、さらに活動が波及していけばうれしい」と期待を寄せる。

 岡山県津山市農業委員会(日笠治郎会長)の寺元久郎さん(69)が条件不利地の中山間地域でリーダーシップを発揮している。集落営農法人の代表として地域を引っ張りながら、農地のマッチングや担い手との意見交換を積極的に展開。警察署長や農業委員2期の経験を生かして、頼れるリーダーとして活躍中だ。

 担当する旧加茂町の西加茂地域は「中国山地の背骨のような場所」(寺元さん)。水田は1枚が5〜20アール、法面の高さは3メートルもあるような中山間地域だ。農地をただ集積・集約化するだけでは、経営効率を上げるのは難しい。
 そのため、農地のあっせんや遊休農地の再生では「選択と集中」を行う。受け手のいない農地が出ると、隣接する担い手に声をかける。決して無理強いはせず、しかし、その農地が水路上流や農道を管理する上で守る必要があれば、何としても維持する道を探すというやり方だ。
 有力な受け手の一つ、「(農)かんば川」は寺元さんが組織した。前身の集落営農の立ち上げから主導し、一昨年の4月に法人化。寺元さんは代表理事に就任した。その際には、耕作条件の良くない農地も含め、7ヘクタールを機構を通じて集積した。率先して機構を活用することで、地域のモデルとなった。
 かんば川は経営の面でも地域のモデルとなっている。農薬と化学肥料を減らした特別栽培米を中心に消費者への直接販売や県内初の中国への輸出を手がけた。ドローンを使った農薬散布などの労力軽減にも取り組んだ。寺元さんは「水田がなくなったら、地域だってあっという間になくなる。収益体質を確立して、後継者が引き継ぎたくなるような魅力ある農業にしたい」と経営改善を急ぐ。
 農業委員、推進委員と担い手間の情報交換を活発にするため、昨年からは昼食会の「ノーテンキ加茂郷」を毎月開いている。農地の利用やマッチングの検討にとどまらず、経営の悩みも気軽に相談し合える場として、地域の団結を強める効果を発揮している。
 寺元さんは岡山県警を60歳で定年退職した後に帰農した。戻った故郷で多くの休耕地や耕作放棄地を目にして、感じた危機感が活動の出発点になった。「今だけでなく10年先の姿を見るようにしている。推進委員の仕事とはそういうことだと思う」と話す。

 「自分たちの仕事は何なのか一から考えた」。農業委員2期の経験を持つ熊本県錦町農業委員会(石松まゆ子会長)の田中典雄さん(67)が、2016年4月の新制度移行で推進委員になり、たどり着いた結論が「より専門的な現場業務」。高齢化が進む担当の平野地区で、未来に続く集落営農法人化で農地をまとめようと、詳細な実態調査や担い手を集めた意見交換会を開いた。法人化は今後の課題となったが、利用権の交換で担い手に集約し、双方の作業性を高めるなど実績を上げている。
 平野地区の農家25戸のうち担い手(認定農業者)は6人で、耕作農地は分散している。5年後、10年後を見据えると一層の分散錯圃は避けられない。町内には12の集落営農組織があり、田中さんも農業委員として設立に関わってきたが、高齢化が進んでも任意組織のままで、将来に不安を感じた。そこで、法人化して農地を集積することで経営が安定し、後継者も確保しやすくなると考えた。

 まず、地区の実態を把握しようと、農業委員会が毎年行っている意向調査結果を基に全農家を回って聞き取り調査をした。家族の年齢構成、農地所有と耕作の状況、機械の保有状況などを確認して詳細な情報をまとめ、農地地図で利用状況を色分けした。75歳以上の人には、あと何年農業を続けられるかの「現役期間」も整理した。
 これらの結果を基に2017年8月、6人の担い手に集まってもらい意見を交換。農業委員会事務局長と地区選出の町議会議員にも出席を求め、調査結果を基に「10年後を担うのはあなたたちしかいない。法人化が必要」と訴えた。
 担い手の年齢は30〜50代。稲作と施設園芸の経営が多く、農地の集積には「まだ余裕がある。個人で続けたい」という反応だったが、担い手が集まって地区農業の将来を話し合った意義は大きかった。
 法人化は先の課題となったが、直後に高齢のイチゴ農家が離農。30アールの跡地を飼料稲を栽培する畜産法人に集積したいが、そのままではまた分散する上に主食用米の間に作付けることになる。このため、耕種農家と利用権を交換して法人の農地に集約。法人の飼料稲作付農地は1.25ヘクタールに拡大した。飼料稲、主食用米双方の作業性も高めることができた。
 田中さんは「担い手の危機意識は薄いが、10年後を考えると集落営農と法人化は必要。時間をかけ、何度でも意見交換会をやりたい」と話す。

写真上=地道な現場活動で1.7ヘクタールをまとめ上げた木村さん

写真中=かんば川のメンバーと寺元さん(左端)

写真下=農薬散布や農地の利用状況確認にドローンの活用を検討する田中さん(左)と石松会長

 [2019-2-22]