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縄文文化が語りかけるもの

 東京国立博物館の「土偶展」に行ってみた。教科書で馴染(なじ)みのある遮光器土偶(青森県亀ヶ岡遺跡)など67点の土製品と対面した▼稲作農耕が始まる以前の1万年余りの間、狩猟・漁労・採集で生きた縄文時代の人々。何を想(おも)い、願い、祈って土を焼き「人がた」を造ったのか。土偶の多くは乳房、大きなお尻やお腹(なか)を表現しており、新たな生命を生み出す女性像だ。安産・子孫繁栄、自然の恵みと豊穣(ほうじょう)を祈る祭祀(さいし)の道具だったようだ▼「子供を抱く土偶」(東京都八王子市宮田遺跡)は、横座りして乳飲み子を抱く母親の像だ。4千〜5千年前のこの小さな土偶からは、命を育む母親の深い愛情が溢れ出ている▼現実に戻ると、親が幼児を虐待死させ、子が親を殺す。自殺者は毎年3万人を超える。耳目を覆いたくなる。物質的な豊かさに溺(おぼ)れ、現代人の精神は病んでいる▼哲学者の梅原猛氏は「縄文文化は日本の基層文化」と指摘した。大陸渡来の稲作農耕文化の底流に潜む縄文人の記憶と精神世界が、日本文化を特徴づけているという▼数千年の時空を超えた縄文人の敬虔(けいけん)な祈りに耳を澄まそう。自然・生命に対する畏怖(いふ)・畏敬の念を忘れてはならない。博物館に勢ぞろいした土偶は、そう語りかけているようだった。

 [2010-3-5]