カテゴリータイトル

大地バックナンバー

すべての記事を読む

大地 食糧危機論をめぐって

 川島博之・東大大学院准教授著の『食糧危機をあおってはいけない』(文芸春秋社刊)を読む。今後予想される地球人口の増加や中国など新興国の食料需要の増大、バイオ燃料需要は決して食料不足を招くものではなく、いたずらに危機をあおるべきではないと言う▼地球上には未利用の農地や水がまだ豊富にあり、十分増産できる。新興国の食生活が一律に欧米化するわけもなく、「爆食中国」は幻想だと切り捨てる。08年の価格高騰も「単なる金融現象」で、「日本は必要な量の食料を確保できていた」▼こう次々と危機の根拠を論破されると、昨今の食料品価格の下げ動向などと相まって何か奇妙な気分にさせられる。だが、本当にそうだろうか▼川島氏は食料輸入が止められる「不測の事態」は過去に起こったためしがないというが、73年の米国による大豆禁輸や最近の十数か国に及んだ輸出規制措置をどう考えるのか▼確かに危機に頼った国内生産擁護論、増強論は危機が去ればまた輸入に頼ればよいという立論を招く。大事なのは、いつ起こるとも知れぬ事態に備え、平時から常に準備を怠らないことだろう。その意味で川島氏の指摘を奇貨としたい。

 [2009-5-8]