人・農地プランの作成と基盤整備・新規参入実現 埼玉・坂戸市農地利用最適化推進委員 鹿ノ戸健次さん

新規企業参入した会社の職員に
地域の農地利用の状況を説明する
鹿ノ戸さん
(左から2人目)
鹿ノ戸健次さん

 坂戸市浅羽地区は、都心から45キロ圏に位置し、20ヘクタール超の農地が広がる都市近郊型農業地域。同地域を担当する農地利用最適化推進委員の鹿ノ戸健次さん(70)は、行政や地域の農業者と連携し、人・農地プランの作成や農地中間管理事業と圃場整備事業の推進を通じて地域外からの新規参入を呼び込み、農地集積の成果を上げ始めている。

 浅羽地区の農地は昭和40年代に実施した基盤整備による10アール区画で、区画の拡大や担い手の確保が地域の課題となっていた。
 2015年8月に開かれた県、農地中間管理機構、農業会議などによる農地中間管理事業推進大会に出席した鹿ノ戸さんは、「畦畔除去による区画拡大など簡易な基盤整備を行い、担い手にまとまりのある形で農地を貸し付ける方法がある。費用は全て国、県、市町村の負担で整備してもらえる」との説明を聞いた。
 鹿ノ戸さんは早速、その翌日に市農業振興課を訪れて浅羽地区の現状を説明。同地区でも同じような基盤整備ができないか相談をした。鹿ノ戸さんの熱い思いを受け、まずは地域をよく知る浅羽水利組合の三役や組合長経験者らと農業委員会・農業振興課職員の有志からなる勉強会を始めることにした。
 勉強会で農地中間管理事業や基盤整備事業について十分理解した後、同組合の「土地利用検討委員会」の協力を得て、組合員88人を対象とした農地中間管理事業の説明会を実施した。鹿ノ戸さんも地権者を戸別訪問して事業の説明を行った。
 あわせてアンケート調査も実施し、浅羽地区の人・農地プランが作成された。プランでは、地域農業を維持するため、新たな担い手として企業参入を進める方針が決定された。

 新たな担い手として企業を呼び込むためには、圃場の区画拡大などの課題があった。このため、鹿ノ戸さんは土地利用検討委員会の協力を得ながら、地権者に区画拡大や用排水路・道路整備など再圃場整備事業に向けてのアンケートを実施。9割以上の地権者から事業実施の賛同が得られた。現在は「埼玉型ほ場整備事業浅羽地区推進協議会」が設立され、事業実施に向けた現地調査が行われている。
 また、鹿ノ戸さんと市の地道な努力が実を結び、19年9月に地域外の企業が農業参入に名乗りを挙げた。同社は地元の農業者から栽培技術指導を受け、昨年から本格的に作付けを開始している。
 その後、地域外からの農業法人の参入もあり、現在は二つの農外企業と一つの農業法人が地域の担い手として位置づけられ、地域の農地面積21ヘクタールのうち6.6ヘクタールを耕作している。
 地元の農業者からは「後継者に困っていたが、担い手が参入したことで営農継続が困難になった場合にも安心できる」いう声が聞かれている。
 鹿ノ戸さんは、「企業などの新規参入により、担い手不足に備えることができた。高齢化で営農が続けられなくなっても農地を貸すことができる。今後は一日も早く基盤整備事業を実施して、担い手に農地を集積していきたい」と力強く話した。