多様な意見を拾い上げる ワークショップで地域づくり

 農地の集積・集約化、集落ぐるみの鳥獣害対策、地元の資源を活用した村おこしなど、さまざまな地域づくりの過程では、その主人公となる住民全員が納得できる合意形成が必要だ。しかし話し合いの場が意見を出しづらい雰囲気では、発言力がある人の声だけが通り、隠れたアイデアも埋もれてしまう。そこで関心が高まっているのが「ワークショップ」。立場や年齢などにとらわれず、多様な意見を拾い上げる手法の一つとして期待されている。

活発な意見が飛び交う座談会

 茨城県東海村農業委員会(舛井操会長)は2016年度、JAの協力の下、村農業政策課とともにワークショップ形式を導入した農業集落座談会を開いた。行政の説明会のようになりがちだったやり方を見直し、参加者が意見を出しやすい雰囲気を醸成。地域を守る道筋を地域自らで探り当て、農地集積などの実績につなげている。
 座談会は「優良農地を守るアイデアをみんなで考えよう!」をテーマに、14集落で開いた。合計で266人が参加。集落の農家だけでなく地区担当の農業委員や農地利用最適化推進委員、村職員、JA職員も加わり、班ごとに討論した。

 手順はこうだ。(1)各参加者がアイデアや日頃から課題・疑問に思っていることなどを付箋紙に次々と書き出す(2)模造紙に付箋紙を貼り、班内で意見を共有(3)挙がった意見を深掘りして関連する内容ごとにまとめ、班の意見を三つに集約する(4)各班の代表者が発表し、集落内で意見を共有(5)参加者全員が1人3票で、自分の班以外の意見に投票(6)集落全体の意見を三つに絞り、重点対策とする。
 投票には小さなシールを使う。無記名なので、年長者も若手も、経験者も初心者も1票の重みは平等だ。集落内の地位などに縛られず、全員の目の前で合意が形成されていく。
 「方針決定を見える化できたのは効果的だった。みんなで決めたことなので、上の人や行政が決めたから仕方なくやっているとはならない」。ワークショップ座談会の立役者である同農業委員会の澤畑佳夫・前事務局長は手応えを語る。
 「いつも同じ人が話していて意見が出しづらい」「声が大きい一部の人の意見が、まるで地域の総意のように扱われることがある」。従来の座談会ではそんな不満の声が少なくなかった。ワークショップ開催後のアンケートでは9割がこのやり方を「よかった」と評価。「参加者全員が主役になれた」「行政側とも身近に話し合えた」などの感想が寄せられている。

「和やかな雰囲気で意見が言いやすかった」と参加者からは好評
班ごとに三つのアイデアを絞り、参加者全員で投票する
(写真はいずれも東海村農業委員会提供)

 合意形成は第一歩で、ゴールではない。それを足がかりに具体的な活動に結びつけていく必要がある。
 同村の押延地区では、地域の担い手に集積するアイデアが多く支持された。話し合いの中で集積依頼者として名前が挙がったのが、北海道出身のネギを中心に生産する40代後半の認定農業者だ。規模拡大や農地集約が思うようにいかず悩んでいたという。
 そこで同農業委員会は2017年度、同地区と隣の地区との合同で、これまでの経緯も踏まえた説明会を開催。名前が出た認定農業者も交えて地権者と調整した結果、合計で約34ヘクタールの畑の集積を実現した。
 この他にも、座談会で出た要望などを踏まえ、全農地(約1万筆)の地権者(約2300戸)に5年後の農地の利用方法を問う独自の調査を実施し、貸したい・売りたいなどの意向を把握。「優良農地の状態で後継者に渡すこと(治療よりも予防)」を第一義に掲げた活動につなげている。今後は各集落の座談会での方針をさらに掘り下げていき、人・農地プランへの反映を目指す。

 ワークショップは、住民主体で方向性を模索するボトムアップ(下意上達)型の地域づくりで真価を発揮する。社会学が専門で、地域の合意形成手法を研究している平井太郎・弘前大大学院准教授は、「やり方次第では、生産組合や集落営農組織の現状打破などさまざまな場面で応用できる」と期待する。
 ワークショップの要となるのがファシリテーター(進行役)の存在だ。中立な立場から、一部の人に発言時間が偏らないように場を回し、意見交換を促す。平井准教授は、話し合いを始める際の投げかけ方が特に重要だと強調。「“課題”から尋ねると、話が漠然と広がって優先順位をつけにくくなったり、実行困難なほど目標が高くなって逆にやる気がそがれてしまうことがある」と指摘する。
 そこで提案するのが、「5~10年後にどうなっていたいか」「地域で大切にしたいことは何か」などを入り口とすること。“夢や理想”探しから入ることで、主体性を持って話し合いを進めることができるという。
 活発な議論のための工夫は他にもある。例えば地域の農地図を見ながら集積・集約化の話し合いをする際、企画者側は初めから全ての情報を書き込まずに、「ここは誰が耕作しているのか?」などと参加者とやり取りしながら地図を埋めていく。参加者がただ座っているだけではなく身を乗り出して一緒に考えることで、当事者意識や一体感を高めることができる。より近い距離感で話し合うため、普段の会議とは机の配置を変えてみることなども効果的だ。
 平井准教授は「ワークショップは特別なイベントではなく、日々の暮らしや営みの延長。試行錯誤がつきもので、やり方も一つだけではない。方向性を決める時だけでなく、活動が始まってからの点検や改善にも役立ててほしい」と話す。