中山間地域 農業委員会の挑戦(1)放棄地10ヘクタールをブドウ畑に再生 長野・安曇野市農業委員会

 長野県安曇野市で、農業委員が主導する一大事業が実現した。同市明科地域の天王原地区で、山間部の耕作放棄地10ヘクタールをワイン用のブドウ畑に再生。地域の協力を取り付けて、農業委員の池上洋助さん(64)が中心になって立ち上げた「明科地域の農業を守る会」が取り組んだ。
 再生した農地は山の中腹にある。2015年に定植が始まり、今では約1万本のワインブドウの苗が育つ。栽培するのは同会が公募で選考した3人の新規就農者だ。今年から本格的な収穫が始まり、地区内でオリジナルワインを醸造する。2016年に就農した齋藤翔さん(30)は「将来的には自家醸造を目指す。一から造ったワインで、安曇野市を盛り上げたい」と意気込む。
 同地域は市内唯一の中山間部で、市の耕作放棄地の7割以上が集まる。池上さんは農業委員として活動する中、荒れた農地をどうにかしなければという思いを募らせていた。
 地元の農業委員らとともに動き出したのは2012年。農地をただ再生させるだけでなく、長期的に有効活用するために収益性のある作物を栽培するべきだと考えた。耕作放棄地を回って地質や日照条件を調べ、同地がワインブドウの栽培に適すると判断した。
 苦労したのは地域の信頼を得て、農地を借りることだったという。桑畑だった同地に関係する地権者は約200人。池上さんたちは地域の集会などで再生計画を説明して回ったが、当初は相手にされなかった。1年間をかけて根気強く説明し、ようやく受け入れられた。
 翌年に4人の農業委員やJA、認定農業者らを会員に同会を立ち上げた。市と協力し、まずは60アールをモデル事業として再生。池上さんら農業委員が自ら重機を動かし、木の根や石を拾う作業には地元住民がボランティアで協力した。当初は計画に懐疑的だった地域が、会の取り組みを認めて一つになった瞬間だった。
 この一体感を力にして、2014〜2017年には毎年2ヘクタール以上を再生。同地区のほぼ全ての耕作放棄地をよみがえらせた。池上さんは「ここまでできるとは誰も思っていなかった。地域の協力のたまもの」と感謝する。
 同会の会員は約20人にまで増えた。今後は耕作者と地権者の信頼関係が継続するよう支援していくことが大切だと池上さんは考えている。同地区で培った信用とノウハウを生かして、他の耕作放棄地を再生する計画もある。地域を守るため、池上さんら会の挑戦は続く。

写真説明=5年前まで山林化していた農地がブドウ畑に(池上さん(左)と齋藤さん)