好評な「移動農地銀行」 鳥取・日南町農業委員会

 日南町は、県西部を流れる一級河川・日野川の最上流にある。町の中央を流れる日野川の流域を中心に田園が広がり、標高280メートルから600メートルの間に大部分の集落と耕地が集まっている。古くから水稲単作と和牛繁殖を主体として営まれてきたが、近年は水田転作の推進により、準高冷地の気象条件を生かしてトマト、白ネギ、ブロッコリーなどの野菜生産に力を入れた複合型の農業に取り組んでいる。

農地パトロールをする農業委員会のみなさん

 同町農業委員会(梅林操会長)は、40年以上前から毎年11月に「移動農地銀行」を開いている。農業委員、農地利用最適化推進委員、事務局が町内7カ所に出向くが、農家の高齢化が著しい近年は、欠かせない活動となっている。
 農家からは「近くに来てもらい、本当に助かる」という声が聞こえてくる。この地道な委員会活動もあり、農地中間管理事業は農家の理解もスムーズで、関連事業による農地整備も進み、県内でも集積率は上位に位置している。
 2018年には、人・農地プランの実質化に先駆け、全農地の利用意向アンケートと地図化も実施。現状を理解してもらおうと、農地パトロールには町議会議員も参加してもらうなど、農業委員会活動の見える化にも取り組んでいる。

中村町長(左)に、提言書を説明する梅林会長(中)、浅田委員

 こうした活動を展開する中、同委員会では2020年に農業委員・推進委員の若手6人による「10年後の日南町の農業を考える会」(座長・浅田昭弥農業委員)を立ち上げた。2010年3月に同町が策定した「10年後の日南町農業の将来ビジョン」を基に協議・検討を重ね、昨年8月に新たなビジョンを策定した。
 四つの課題検証と旧ビジョンの修正からなっており、(1)農事組合、集落営農といった既存組織のあり方(2)農地活用、保全のあり方の検証(3)生産振興の方向性と新しい販売システム(4)担い手の創造――で構成されている。
 この「10年後の日南町農業の将来ビジョン」は、農業委員会総会でも議論・承認され、昨年8月に中村英明町長に提言書として提出した。
 梅林会長は、「地域を回ると管理ができていない農地が増えつつある。地域に担い手がいても、これ以上農地を引き受けるのは難しいという声も聞こえる。次代の担い手確保に向け、若い人の農業への参画と体験の場を作っていかないといけない。守るべき農地の線引きも必要」と説明し、町長に理解を求めた。中村町長も「町の農業施策に生かしていきたい。町の施策で担い手育成につなげたい」と話した。