新生農委 新体制で復興へ全力 福島・南相馬市農業委員会

 4月1日に新体制に移行した福島県の南相馬市農業委員会(野幸一会長)。農業委員19人、農地利用最適化推進委員は28人と旧体制より12人増員した。農業委員は約半数が経験者だ。原発事故などで甚大な被害を受けた基幹産業、農業の復活を目指し、除染を終えた再生可能な農地を組織一丸で守る。
 被災前から高齢化の影響で耕作放棄地は増加傾向にあった。農地台帳の農地面積は約9300ヘクタール。農業委員35人で農地パトロールや転用確認などの業務を行うには負担が大きかった。
 そうした時に発生した2011年の東日本大震災と東京電力福島第一原発事故。市内の農地が全て放射線の影響を受け、除染が必要になった。除染中の4年間は作付け制限を受け、農業ができない状態が続いた。
 2015年4月1日、避難指示区域以外の農地除染が完了し、作付け許可が下りた。作付けを再開した農地は2015年が約700ヘクタール。震災前の10分の1以下に落ち込んだが、2016年には1700ヘクタールまで作付け再開が進んだ。
 作付け再開を待ち望んでいた農家がいる一方、農業をやめた農家も少なくなかった。野会長は「4〜5年、農業ができなかったことで作付けに不安を覚えている人もいる」と話す。除染済みだが未作付けの農地が点在し、農地の利用意向調査が急務となった。
 もう一つの課題は農地転用だ。避難指示区域内の近隣市町村の住民の転入が増え、転用申請数は震災前の2010年は年間109件だったが、震災後は395件と約4倍まで増加した。農業委員は転用事案の確認作業に追われながら、農地パトロールも同時並行で行うために委員1人当たりの業務負担は大きくなっていった。
 そこで新体制では、農業委員は転用審査などの法令業務を中心に行い、推進委員は1地区2〜3人ずつの体制を組み農地パトロールに取り組むことを決めた。6月から6年ぶりに市内全域でパトロールを実施し、作付け再開が可能か確認。今年7月に避難指示が解除された地域では農地の除染完了を目指し、試験栽培など作付け再開に向けて動き始めている。
 これらの農地を担い手につなぐことが次の課題だ。同市が2015年に策定した2016〜2019年の農業の再興計画「農林水産業再興プラン」にも担い手の確保・育成が書かれ、2024年には大規模土地利用型農業の展開などを目指していく方針だ。
 野会長は「今まで市内で作付けしていた農家を呼び戻しつつ、新しい担い手が来るよう魅力を出していきたい」と話す。

写真説明=除染が完了した再生可能な農地を担い手につなぐのが課題だ