都市農地の確保に奔走 大阪・岸和田市農業委員会

 大阪都心部から電車で20分の距離に位置する岸和田市の農地面積は824ヘクタールで市域の約11%を占める。農業振興地域には圃場整備された農地も広がる一方、市街化区域内には生産緑地が109ヘクタール存在する。同市農業委員会(木下良三会長)では府内で4番目に多い生産緑地の保全対策に奔走するとともに、担い手の育成にも取り組んでいる。

「彼が一番熱心に研修していた」と話す木下会長(右)と谷本さん

 同委員会では、生産緑地制度が改正された2017年4月以降、都市農地を将来に残そうと奔走。木下会長(79)は「都市部ならではの営農しにくい要素があるが、生産緑地は防災などさまざまな機能を持っており、残していかなければならない」と力説する。
 生産緑地の指定が始まった1992年当時の同市の生産緑地面積は約154ヘクタール。その後の追加指定により95年にはピークとなる約156ヘクタールまで指定が進んだが、昨年12月時点では約109ヘクタールと徐々に減少している。
 同委員会は2018年2月と4月の2回にわたり、市長に対し農業委員会法第38条に基づく意見の提出を実施。生産緑地地区の追加指定と生産緑地地区の規模に関する条件の引き下げを要請した。これらは翌年3月に実現した。

 同委員会は19年6月から7月にかけ、市都市計画課、JAいずみのとの3者で生産緑地所有者を対象とした説明会を8回開催した他、8月から9月の土日に相談会を8回開催。農業委員会だよりや市・JA広報誌にも啓発記事を掲載し、制度の周知徹底を図った。
 「委員が所有者から相談を受けた際には、特定生産緑地の選択を後押ししてきた」と木下会長。連絡がつかない所有者には委員が戸別訪問するなどし、全ての所有者に接触した。
 こうした活動により1992年指定分の生産緑地については、面積ベースで約87%(8月末時点)が特定生産緑地の指定の申請をしている。

 木下会長はこれまでに6人の研修生を独立させるなど、同市の担い手育成に大きな役割を果たしてきた。
 同市神於山で軟弱野菜を栽培する谷本純一さん(45)も木下会長に農業を学んだ一人だ。15年前に脱サラした谷本さんは木下会長のもとでの1年間の研修を経て、30アールの農地を借りて独立就農した。
 「農地を借りて独立する際は、地域の信頼がある木下さんのバックアップが大きな後押しとなった」と話す谷本さん。現在では自身も地域からの信頼を得て、ハウス25アール、露地100アールまで規模を拡大。土地改良区の理事も担っている。
 木下会長は、「昔に比べて農業を継続して農地を次世代につなぐという選択肢が選びづらい時代。都市部の農業委員会として、多様な担い手をサポートしなければならない」と力強く語った。