所有者不明の荒廃農地を有効活用 北海道 七飯町農業委員会

 七飯町(ななえちょう)農業委員会(杉村久悦(きゅうえつ)会長)は、所有者の死亡で利用されていなかった6筆、2.1㌶の農地について、およそ40人に及ぶ北海道内外の関係権利者全員を探し当てたものの、所有者を特定することができず、2022年2月に北海道農地中間管理機構を介して担い手に貸し付けた。

 この農地は優良農地に囲まれ、所有者が死亡した07年以降、利用されずに荒廃が進んでいた。
 18年に同機構が、簡易な基盤整備により荒廃農地を再生させ、担い手に貸し付ける「農用地等の保全管理実証モデル事業」を創設。同農業委員会は、所有者の負担がない同事業の活用を見越して相続の権利者の探索を始めた。
 戸籍謄本や附票(ふひょう)、住民票を基に家族関係説明図を作成したところ、既に死亡した人を含めると関係者は100人超にのぼった。このうち存命の権利者全員に対して「持ち分があることを申し出てほしい」という内容の通知を郵送。一人から申し出があったものの過半数に届かず、所有者を特定できないとして公示した後、同機構に通知した。
 同機構は道知事の裁定を経て21年に農地の利用権を取得し、同年10月末から11月にかけて除草と耕起、土壌改良剤の散布などを実施。22年2月に町内の担い手一人に貸し付け、今後牧草が作付けされる予定だ。
 農業委員会の担当者は「所有者の子が死亡していたり、転居の届け出をしていなかったりで、権利者全員を探し当てるまでが大変だった」と話す。この作業に2カ月を費やしたという。

 杉村会長は「相続の届け出が徹底されなければ、所有者不明農地が増えて、農地利用の最適化に携わる農業委員会の負担は大きくなる」と懸念を示す。
 農地をはじめとした所有者不明の土地問題は、全国各地で発生している。このため国は24年4月から相続登記の申請を義務化する改正不動産登記法を施行する。
 また同施行日以前に相続した農地についても「施行後3年以内の登記」が義務付けられている。農業委員会の農地台帳は年に1度、住民基本台帳と固定資産課税台帳と照合することになっており、今後は登記情報との連動が課題となる。こうした登記全体に関わる制度の変更を踏まえたうえで農業委員会への「相続の届け出」は重要な取り組みだ。
 杉村会長は「農業に関わらない人が農地の相続人となるケースは今後も増えていくだろう。この届け出の徹底を、国は責任をもって周知してほしい」と話す。