耕作放棄地で薬用作物栽培/岡山 井原市農業委員会

井原市(いばらし)農業委員会(森永忠義(もりながただよし)会長)は、2014年から耕作放棄地対策の一つとして、薬用作物の栽培・普及に取り組んでいる。母の日にあわせた花の出荷や観光イベントなど波及効果が生まれている。女性委員らによる移動青空市への出店など、地域の活性化に向けた取り組みも盛んだ。

同委員会の取り組みは前会長である森本潔(もりもときよし)さんが14年に耕作放棄地対策として、少しでも「もうかる農業」につなげようと薬用作物の栽培を推進したのが始まりだ。農業委員が中心となって栽培を普及し、現在14人が栽培するようになった。
 昨年10月には、晴れの国岡山農業協同組合に生産者部会が設立され、同市の特産品としてさらなる栽培拡大が期待されるまでになった。シャクヤクの収穫物は根になるため、株ごと掘り上げる作業となる。この作業には農業委員も応援に駆け付け共同作業に汗を流す。
 このシャクヤクは「べにしずか」という品種で、同市内のみで栽培、販売をすることを条件に国の研究機関から提供された。薬用作物は全般的に収穫までの栽培期間が長く、シャクヤクは4~5年かかる。現在は安定的な販売ルートの確保が課題だ。
 生産者部会では、べにしずかの販売対策のほか、生薬会社との契約栽培の取り組みを行っている。その中心となっているのが佐能直樹(さのうなおき)委員だ。佐能さん自身も薬用作物の栽培経験がないため、生薬会社の栽培指導を受けた。その上で指導通りの栽培を基本として耕作者への技術指導など普及に努めている。
 また、シャクヤクの花の部分を試験的に出荷したところ評判がよかったため、新たな活用方法として、市内の観光業者に「花摘み体験ツアー」を提案。多くの人でにぎわう結果となった。シャクヤクの花の部分は、薬効成分のある根の成長を妨げないように3分の1程度は摘み取る必要がある。「従来廃棄していたもの(花)を販売することで、収入を増やしたい」と佐能委員は意欲を語る。

シャクヤクの収穫作業には農業委員も応援に駆け付け共同作業に汗を流す
移動青空市に出店し活動をPR

同委員会は農業委員16人のうち5人が女性という県内でも女性登用の先進的な委員会。農業委員として、地域の活性化に役立てようと移動青空市に出店し、地元産農産物のPRにも力を発揮している。
 きっかけは倉敷市を中心に甚大な被害のあった「平成30年7月豪雨」。女性委員らは被災者のために何かできないかと考え、自分たちの農作物の収益を義援金にしようと取り組み始めた。
 毎月1回を基本に、井原鉄道井原駅で行われる「井原線DE得得市(とくとくいち)」に農業女性の会として出店し、趣旨に賛同した他の委員たちとともに季節の作物を販売している。三村多美子(みむらたみこ)委員は、「私の住んでいる美星町(びせいちょう)で育った高原野菜を紹介したい気持ちが一番。また、新規就農者が市場に出せない規格外の野菜を少しでも販売して支えてあげられたらと思う。井原市の農業や市の活性化につなげられるようこれからも継続して取り組んでいきたい」と抱負を語った。