農地を活かし担い手を応援する 第2部 農地利用の最適化(38) 傾斜地の耕作放棄地を再生

埼玉・滑川町農委会

 埼玉県滑川町農業委員会(小林孝男会長)が解消の難しい傾斜地の耕作放棄地の再生に取り組んでいる。町や地元農業者と連携しながら、これまでに4.7ヘクタールを再生。昨年は新たに73アールをよみがえらせた。
 町の農地面積847ヘクタールのうち耕作放棄地は150ヘクタール。権田正司事務局次長は「ほとんどが元は桑畑の傾斜地。やらないのではなく、やりようがなく放棄されている実態」と明かす。機械作業が難しく、近年はイノシシやアライグマ、ハクビシンなどの鳥獣被害もひどい。生産性の低い農地を農業者だけで再生させるのはほぼ不可能だった。
 農業委員会では、歴代会長を先頭にこれまで町とともに耕作放棄地を減らす中で、傾斜地でも育ち、農業者の利益になる作物を試験栽培してきた。その結果、ミカン、栗、柿などを町の推奨作物に指定してもらい、苗木の補助も町で行うように働きかけてきた。その中でも渋柿は鳥獣被害を受けづらく、町が特産の干し柿「武州ころ柿」の復活をねらうのにも一致していた。
 昨年、原野化していた分山地区の傾斜地73アールには蜂屋柿200本の苗木が植えられた。地域選出の農業委員が「地元の耕作放棄地を何とかしたい」と総会で申し出たのがきっかけだった。農業委員会は地権者に働きかけると同時に地元農業者に解消を呼びかけ、地域での再生への機運を作り出した。地域では、地域選出の農業委員と地元農業者が「地域を元気にする会」を立ち上げ、開墾作業に近い再生作業を担った。
 4年後には柿の木が育ち、町の特産品に弾みをつけると期待されている。武州ころ柿は戦前には100万個が出荷されたが、現在も出荷しているのは町内で1戸のみ。再生農地で育った柿が特産の原料として評価されれば、戸数の減少が続く町の農業に勢いが出ると委員会はみている。
 小林会長は「あの荒れていた場所で柿が育てば爽快。地元農業者も地域おこしにつながると期待している」と語る。再生した農地の草刈りを農業委員総出で行うなどこれからも全力で応援していく構えだ。
 「まずは地元が何とかしたいと思わなければ耕作放棄地は解消しない。町や地域、このパイプ役になっていくのが農業委員会だ」と強調する。

写真説明=柿の植栽では農業委員と地元農業者がともに汗をかいた