農地利用最適化の着実な推進へ 体制整備と実践活動の強化が重要

 2016年4月に改正農業委員会法が施行されて1年が経過した。同法に基づき、新体制に移行した農業委員会は3月末時点で288委員会。今夏はその動きが一気に本格化し、全体の3分の2の農業委員会が新体制に移行する。「農地利用最適化」に業務が重点化されるなかで、今後は体制整備と実践活動の強化がより重要性を増す。先行事例の取り組みを伝える。
 
山形県大江町農業委員会

 昨年10月の新体制移行に伴い、農業委員の定数を一切減らさなかったのは、山形県の大江町農業委員会(菊地敏美会長)。
 定数基準のほぼ上限の13人を確保し、旧体制(選挙委員8人、選任委員5人)の人数をそのまま維持した。農地利用最適化推進委員も定数基準の「100ヘクタールに1人」の上限に極力近づけ、10人を確保。農業委員と推進委員を合わせた人数を23人とし、旧体制からほぼ倍増させた。女性農業委員も従前と同数の「2人」を確保した。
 「これ以上定数を減らすと、集落の声が農業委員会に届かなくなるという危機感があった」。菊地会長(67)はそう話し、選挙委員の定数削減を余儀なくされた、この20年ほどを振り返る。特に心配したのが農地パトロールへの影響だ。農業委員と地区の精通者、事務局がチームを組み、8〜9月に集中的に行ってきたが、人員不足でこれまでも相当な負担となっていた。
 そこで、2015年11月に「農業委員・推進委員定数検討会」を開催。新体制後のあるべき姿について、農業委員が自由に話し合った。
 そこで出た意見を要望書に集約。2016年1月に町長に提出したほか、議会関係者にも農業委員・推進委員の定数確保を強く要請した。農業委員会の訴えに関係者も理解を示し、農業委員会の体制強化が実現した。
 「農業委員会として、まずは理想の姿を検討するところから始めたのがよかった。先に予算面などを考えてしまうと、目指すべき姿が検討できなかった」(神保昭事務局長)。
 同町のこうした取り組みは、周辺の農業委員会にも影響を与えている。新体制移行に伴い、朝日町は6人、河北町は3人、それぞれ人員を増やした。
 当面の課題は、農地利用意向調査の補足調査だ。昨年11月に耕作放棄地所有者に意向調査票を送ったが、返信がないケースが3〜4割あった。そのため、推進委員が現場に出向いて一人一人の意向を確認して回る予定だ。
 推進委員は、町内に五つある「人・農地プラン」の区域ごとに2人配置している。10人のうち、2人は元農業委員。ほかの8人もJAの生産部会の役員などを務めており、現場の事情には明るい。ただ、農地制度などの理解はまだ十分とはいえないので、農業委員も含めて山形県農業会議が主催する研修会に積極的に参加するようにしている。
 農業委員会も、独自の研修会を1月に開き、基本的な業務や人・農地プラン、町単独補助事業の内容などを説明。農業委員会の活動目標や計画を盛り込む指針案の検討も行った。
 同町は中山間地域で、平場は水稲、傾斜地は果樹が中心。特に樹園地では担い手への農地の集積・集約化は容易ではないが、基盤整備事業や農地中間管理事業、農地の受け手にも交付する町単独事業などの活用を視野に、まずはモデル地域を創出していきたい考えだ。
 菊地会長は「近々のうちに、できれば3年ほどで集積・集約化を進めていければ」と今後を見据える。

京都府京丹後市農業委員会

 京都府の京丹後市農業委員会(梅田和男会長)が新体制に移行したのは昨年7月。選任制の農業委員19人に加え、農地利用最適化推進委員36人が新たに選ばれ、総勢55人にパワーアップしてのスタートとなった。
 目指したのは地域の実情に合った農地利用の最適化だ。同市は2004年、丹後半島西部の隣接6町が合併してでき、営農条件が「旧町ごとにかなり異なる」(梅田会長)。そこで旧町ごとに「地域会議」を設けて推進する体制を作った。
 さらに担い手の“収益力アップに結び付いた”農地利用を進めるため、市内を19地域に分け、それぞれに農業委員1人プラス推進委員1〜3人というチームを置いた。両委員がともに地域の耕作状況に目を光らせるとともに、担い手ができるだけ面的にまとまった形で利用できるよう連携して農地流動化を進める。
 梅田会長は同市における“最適化”の意味を「本市の農地は水田、普通畑、果樹畑、砂丘畑で構成される。それぞれの地域で担い手が減少し、作物選定と町域を越えた土地利用が必要になってきている。単なる集積ではなく、所得向上を念頭においた集積を行うことだ」と説明する。
 ただ、多くが新任の推進委員にとって、農地の利用調整活動は戸惑うことの方が多い。吉岡茂伸会長職務代理は「まずは担当地域の状況をきっちり把握することから始めてほしいとお願いした」と話す。昨年の農地利用意向調査では推進委員が全戸訪問し、最適化へのスタートをきった。
 旧久美浜町では、両委員に受け手となる11の法人を加えた「農地利用調整ネットワーク」も発足。担い手相互の耕作地交換など、農地を面的にまとめる方向での利用調整がより広域で行える態勢も整った。

写真上=人・農地プランの話し合いには農業委員と推進委員は必ず参加する(1月18日、大江町の本郷東部地区)

写真下=京丹後市農業委員会の梅田会長(右)と吉岡会長職務代理