新生農委 最適化へ本格的に稼働 今月で8割の農委会が新体制移行完了

 夏本番を控え、農業委員会の体制移行がピークを迎えている。7月中(沖縄は9〜10月)に全国の約6割となる1022委員会が改正農業委員会法による新体制に移り、これで約8割の委員会が体制移行を完了。重点化された「農地利用の最適化」が本格的に動き出す。多くの委員会が新設する農地利用最適化推進委員がキーマンだ。

茨城・茨城町農業委員会
 44市町村のうち21市町村が昨年度中に新体制となった先行県の茨城県。昨年4月1日の第1陣で移行した茨城町農業委員会(箭原和敏会長)は、農業委員と農地利用最適化推進委員(推進委員)の連携で担い手への農地集積・集約を進めている。昨年度は133ヘクタールを新たに集積。うち77.6ヘクタールでは農地中間管理機構を活用した。
 町を旧町村の5地区に分け、地区単位で集積を進めているのが特徴だ。農業委員と推進委員が一緒になって地区ごとに班をつくり、地域と顔が見える関係の中で集積に向けた合意形成をリードする。
 各地区でまず取り組んだのが、地区の集積目標と集積モデル地区の設定。モデル地区は、水田に比べ集積が遅れている畑地に設置した。ここを集積・集約の出発点として、他の地域にも波及効果を狙った。同町農業公社を事務局に農業委員や推進委員、JA理事、認定農業者などが入る農地集積推進協議会も全地区で発足した。
 箭原会長(60)は「モデル地区の取り組みで推進委員さんに集積・集約の進め方を知ってもらい、さらなる広がりにつなげたい。地区間ではいい意味での競争心も出てきた」と話す。
 各地区独自の取り組みも効果を上げ始めている。沼地区では、推進委員が地権者を戸別訪問して、農地を担い手に預けるように説得して回った。その結果、前年度と合わせて約13ヘクタールの遊休農地が基盤法に基づく利用権設定で、担い手の農業法人に渡った。推進委員の声かけをきっかけに地権者の農地管理意識が高まり、定期的な草刈りが行われるようにもなった。
 石崎地区では、高齢農家など農地の出し手となりそうな候補者に推進委員が戸別訪問で働きかけを実施。中間機構を通して、約53ヘクタールを集積に結びつけた。
 「推進委員はとにかく現場を歩かないと駄目。小さく分散した農地こそ集めて担い手に預けなければ」長岡地区を担当する推進委員の木村順さん(66)は現場で活動する大切さを口にする。農業委員を2期務めた経験から、農地を動かすには信頼関係が大事だと身に染みているためだ。木村さんの呼びかけに応え、近く29筆・約1.7ヘクタールが1枚にまとまり、担い手へと集積する。
 地域に入り込み連携する農業委員と推進委員の活動は、町に集積の機運を呼びつつある。箭原会長は「10年先を見据えて、農地の集積・集約をどんどん進める」と力強く宣言する。

新潟市中央農業委員会
 新潟市中央農業委員会(神田利次会長)は2016年4月、県で先頭を切って新体制に移行した。農業委員19人に加え、推進委員19人を新たに選び、以前の農業委員28人から38人へと体制を強化した。
 新戦力となる推進委員の中で、早くも“スーパー推進委員”の愛称で呼ばれ、地域から頼られるのが虎澤栄三さん(62)だ。
 これまでに農業委員を11年間務めた経験を持ち、地域に顔が広く、各種事業も熟知。同農業委員会では、農地中間管理事業のスタートを契機に担い手への農地集積・集約にさらに力を入れてきた。農業委員時代からその活動で実績を残してきた1人でもある。
 坂井靖彦事務局長は「虎澤さんは取り組み熱心な人。愛きょうがあって親しみやすいのも、地域の相談役になって事業を進める推進委員にぴったり」と信頼を口にする。
 同委員会は、2014〜2016年の3年間に管内9地区で同事業を活用。そのうち2地区で話をまとめあげたのが他でもない虎澤さんだ。
 農業委員時代の2015年にまず働きかけたのが地元・亀田長潟地区だった。「担い手の数が減る中で、次の世代が経営しやすい環境を整えておくのが現役の役目。将来を見据え、早くから集積・集約化を進めたいと常々思っていた」と話す。
 同地区で水稲経営を行う(農)あしぬまカントリーの代表でもあり、虎澤さんはまず地域の担い手や地権者に広く声をかけ、集落での説明会の開催にこぎつけた。説明会では地域の代表として、担い手に農地を任せるよう呼びかけた。県や市、農業委員会事務局など行政関係者も広く出席し、中間機構の仕組みや手続き方法などを説明した。
 春から夏にかけて開いた4回の集落説明会で話がまとまり、秋に地区内の7割となる約33ヘクタールの農地を中間機構に貸し付け、同法人のほか担い手5人の農地の集積・集約に結びつけた。
 この一件で、法人経営者として農地の集積・集約による作業効率の向上やコスト低減のメリットを実感した虎澤さんは「若い後継者が多い地区でこそ早く取り組んでほしい」と推進委員に就任した昨年度も引き続き上早通地区と丸潟地区の2地区に働きかけた。
 説明会をセッティングする前に、各地区でまず中心となる担い手と個別に話をして、地区の合意形成が円滑に進むよう工夫。上早通地区では話がまとまり、地区内の3割・23ヘクタールの農地で集積・集約が実現した。「残る丸潟地区には今年も働きかけたい」と意気込む虎澤さん。
 日頃から地域農家に相談されることが多く、新規就農者への農地のあっせんでも成果を残す。「大したことはしていないが、地域から頼られるのはうれしい」と照れ笑いする。

1農委会5人以上の増員
 今年の3月末までに288の農業委員会が新体制に移行した。288委員会のうち269委員会が推進委員を置き、3732人の推進委員が誕生した。4023人の農業委員と合わせ、旧体制からは1委員会当たり5人以上増員し、1.2倍の人員増となった。
 7月には全国992の農業委員会が新体制に移る。9〜10月には沖縄県の30委員会も順次移行して、農地利用の最適化に向けた体制を整える。多くの農業委員会で農地パトロール(利用状況調査)が始まる盛夏はもうすぐそこ。農地の現場の熱気も高まり始めた。

写真上=新体制となった茨城町の農地の番人(左から大場八千代運営委員長、箭原会長、推進委員の木村さん、田家久司会長職務代理)

写真下=早くもスーパー推進委員と呼ばれる虎澤栄三さん