農地利用最適化の出発点 農地パトロールに全力 青森・弘前市農業委員会

 夏本番の8月、農地パトロール(農地利用状況調査)の季節がやってきた。今年は約6割の農業委員会が7月に新体制へ移行。農地利用最適化推進委員という新しい力を得て、最初の現場活動が始まる。地域の農地利用と状況把握は、目指す「農地利用の最適化」にとっても出発点となる取り組みだ。
 7月3日、青森県弘前市のりんご公園に、同市農業委員会(成田繁則会長)など市の農業関係者が集結した。この日は農地パトロールの出発式。あいさつに立った成田会長(62)は「適切な農地利用や荒廃農地の状況把握のために、全力で農地パトロールに取り組んでほしい」と呼びかけた。
 出発式の後、参加者らは11班に分かれ、重点地区とする清水地区のパトロールに移った。重点地区は市内14地区のうち、遊休化が懸念される1地区に設定。他の地区についても、7〜8月の期間で全て調査する。
 中山間地域に当たる清水地区は、傾斜地の畑などを中心に遊休化が進行している。成田会長は、地域農業者やJA職員らでつくる農地活用支援隊、委員会事務局と一緒に現場を回った。
 当日はあいにくの雨模様。成田会長らは傘と調査図面を持って、念入りに農地の状況を確認し、調査図面に書き込んでいった。数年間耕作されていない農地では、背丈以上に雑草が生い茂る場所もあった。成田会長率いる第1班は195筆を回り、A分類(再生利用が可能な荒廃農地)が1筆、B分類(再生利用が困難と見込まれる荒廃農地)が10筆となった。
 成田会長は「山あいなどの条件の悪い農地では、高齢化や後継者不足もあって今後の営農継続が難しい。こうした農地を有効活用できるよう、大幅に増えた推進委員と農業委員が仲介役としての役割を十分に発揮できるような体制づくりをしたい」と話す。
 同市農業委員会は昨年4月1日に新体制に移行した。農業委員26人に加え、推進委員を53人委嘱し、移行前からは約1.5倍の人員増。県内屈指の充実した体制となった。豊富な人員を生かして、7〜8月の「利用状況調査月間」では、農業委員と推進委員がセットで地域を回っていく。
 パトロール後は、遊休農地と遊休化のおそれがある農地を対象に利用意向調査を行い、農地中間管理機構などへの貸し付けを促す。昨年度から始まった勧告遊休農地への課税強化の基礎資料にもなるため、同市農業委員会では確実に調査書を回収していく。
 体制移行の初年度は747筆、115.6ヘクタールの農地を利用意向調査の対象とした。高齢化が進む中、今年はさらに増えると農業委員会はみている。
 同時に再生が難しい農地では、非農地判断も進める。守るべき農地を生かすために非農地判断を積極的に実施。パトロールで確認した現況をもとに検討を行うなどして、総会で最終判断する。昨年度は262筆、51.9ヘクタールを非農地判断した。
 成田会長は「非農地判断は守るべき農地を明確にするのが目的。非農地化しなかった農地は農地として活用するため、農業委員会が責任を持ち耕作者を探してマッチングする」と話す。
 このマッチングの調整役として成田会長が期待するのが推進委員だ。推進委員は全地域を網羅する形で53人を置いた。しかし、53人のうち農業委員会業務の経験者は元農業委員の5人だけ。48人が未経験のため、任期の3年目にはマッチングできるように各年ごとのステップアップを考えている。
 1年目は農業委員とともに地域を歩き、農業者に顔を知ってもらいながら役割を認識。2年目は1人で地域を回り、遊休化や違反転用に目を光らせ、農業者の意向も聞き取る。そして3年目には農地のマッチングで出し手と受け手の調整役を担うようになる構想だ。新任の農業委員や推進委員が多いため、経験豊かな農業委員・推進委員が付き添って指導し、3年目には全員が独り立ちできるようにする。
 成田会長は「推進委員が頑張ってくれているので、きめ細かなパトロールができるようになった。地域農業を維持していくために、農業委員と二人三脚で力を発揮してほしい」と話す。

 夏本番と同時に始まった農地パトロールは、農地利用の最適化のスタートを切る取り組み。調査で得られる農地情報は、その後に地域農業を考える土台となる。人間に例えると診察を行ってカルテをつくるようなものだ。処方箋(対応策)を考えるために、不可欠な基礎情報の収集になる。
 先月には約千の農業委員会が新体制となった。新体制の農業委員会では、移行後1カ月で始まったパトロールの準備期間が短く、慌ただしく始まったところも多い。
 しかし、パトロールは新しく仲間に加わった推進委員と連携を深める絶好の機会でもある。農業委員会の「目に見える」活動として、農地所有者、ひいては地域住民一人一人に農地を守り生かす意識が醸成されることを期待したい。

写真説明=パトロール前にステッカーを受け取る農業委員や推進委員