農地利用の最適化最前線(8) 多様な担い手で地域支える農業へ 東京・瑞穂町農業委員会

 東京都瑞穂町農業委員会(上野勝会長)は2009年以降の8年間で15人の新規就農者と2社の参入企業を受け入れた。多様な担い手を支援して、貴重な都市近郊農地を維持しようとしている。目指すのは地域を支える農業だ。
 同町では農業者の高齢化で耕作者が不足し、遊休農地の増加に悩まされてきた。一方で、消費地に近く平場の同町は新たに農業を始めるには魅力的な土地だ。そこで、同町農業委員会は新たな担い手の受け入れに乗り出し、優先して利用権を設定した。新規就農した15人は都内に限らず各地から。東京都農業会議と連携して、同町は有名な新規就農の受け入れ地になった。
 就農後の支援にも力を入れる。委員が日頃からコミュニケーションをとり、地域との橋渡しを担う。事務局は「農地を貸して終わりではなく、地域の関係づくりまで支援している」と話す。都外からも集まる就農者に、町の一員として定住してもらうことがひそかな目標だ。荒れていた農地が耕されるならと、地元農家も期待を寄せる。
 都市近郊ならではの困難もある。地域からは農地としての土地利用を疑問視する声も上がるのだ。高齢化や過疎化が進む中、町を盛り立て、人を呼び込むことが切実な課題。そのためには立地を生かして、宅地や商業施設に開発した方がよいと考える住民もいる。
 そんな中、上野会長(70)は「農業こそ地域を守る産業」と訴える。先祖から受け継いだ農地を生かす農業者の存在こそが、地域の底力になると信じている。
 同町で新規就農した森尋さん(38)は約70アールの農地でトウモロコシやネギなどの露地野菜を栽培し、地元のスーパーや直売所、都内の学校給食向けに出荷する。前職の製造業から、昨年4月にかねてからやりたいと思っていた農業に転身した。
 東京都農業会議に相談し、同町の先進農家で1年半の研修を受けた。そこで得たノウハウや人脈を生かそうと同町に就農。丁寧な畑の管理で地元農家から信頼され、今では町内の5カ所の農地を任されるようになった。「今後は経営を安定させて、圃場も広げていきたい。将来的には雇用も生みたい」と頼もしい。
 企業参入も受け入れる。2013年には都内を中心にスーパーなどを200店以上展開する「(株)いなげや」の子会社の「(株)いなげやドリームファーム」が参入した。今では2ヘクタール以上の農地で野菜を栽培する地域の担い手だ。今年8月には新たに同町に本社を置く中食の製造企業「(株)ゼストクック」の関連会社の「(株)いいなファーム117」が参入。新鮮な顔ぶれの担い手が着々と集まり、町に活気をもたらしている。

写真説明=信頼関係で結ばれた上野会長(左)と森さん