農地を活かし担い手を応援する 円滑な第三者経営継承実現へ 北海道 中頓別町農業委員会

全農家にアンケート実施

 北海道の北東部、酪農地帯の中頓別町では、2011年と2014年に1組ずつ、新規参入者が離農者などの経営資産を引き継いで就農している。農業委員会では、経営継承を希望する農家の具体的な考えを確認するため、農家全戸を対象にアンケート調査を実施するなど、スムーズな経営継承の実現のための一翼を担っている。

 中頓別町の農家戸数は、1990年の113戸から2008年には半数の54戸となった。「離農跡地の受け手はすぐに見つかっていたが、2008年頃から見つかりにくくなってきていた」と役場担当者は振り返る。
 それまでUターン後継者中心の支援だったが、新規参入者の誘致にも力を入れていこうとする意識が、農業関係組織のなかで高まっていく。
 この意識が表面化したのは、就農希望者が現れた2010年のことだ。受け入れのため、町、農業委員会、農協、普及センターなどで構成される町農業担い手育成センターのなかに、各組織の担当者をはじめ、農協の青年部や女性部、指導農業士を迎え入れた推進本部会議を置き、検討を重ねた。
 1992年にすでに制定されていた新規就農者誘致特別措置条例を、利用しやすいよう要件を見直し、研修期間中の住居の確保、研修先を手配するなど急ピッチで環境を整えた。このときの就農希望者は、研修期間中に突然逝去された経営者の農地や牛舎、機械を引き継いで2011年に就農した。
 これがきっかけで、当時農業委員会の会長だった石井雄一さん(故人)は、「今後新規参入者を受け入れていくには、既存農家が自らの経営資産を第三者に引き継ぐ意志があるかを事前に確認しておくことが必要だ」と考え、2011年度末、町内の農家全戸を対象にアンケートを実施。農業委員2人1組となって、回収時に各戸を訪問した。「役場や農協の職員ではなく、農業者でもある農業委員さんだからこそ、みなさんも腹を割って話してくれたのではないか」と役場担当者はみている。
 このアンケート調査の結果、2戸が第三者に経営を引き継がせる意志があることがわかった。このうちの1戸が、農業関係機関・組織の協力を得て、2014年に経営継承を実現させている。
 (公財)北海道農業公社に設置される道農業担い手育成センターの担当者は、農業委員会が取り組んだアンケート調査を、「第三者に経営資産を譲り渡す意志があることをきちんと事前に確認しておくことが、経営継承が確実に行われるために大切だと、最近各地域で認識されるようになっている。それを先駆けて実践している」と評価する。
 町農業委員会では、アンケート調査実施の翌年以降、2012年度と2014年度に対象者を60歳以上に限定して、同様のアンケートを行っている。加えて、研修生の受け入れ前に行う面接の立ち会いや、研修生の受け入れ先としてのサポートもしている。町内で現在研修中の2組のうち、1組が今年就農する予定で、着実に成果をあげている。

写真説明=全戸を対象としたアンケート調査の結果を農業者に情報提供する(中頓別町農業委員会提供)