中山間地域 農業委員会の挑戦(4) 地区担い手集め意見交換 熊本・錦町農業委員会

2016年4月の新制度移行で、農地利用最適化推進委員に就任した熊本県錦町の田中典雄さん(67)は、農業委員2期の経験を踏まえて活動目標を立てた。担当する平野地区で、5年後、10年後を見据えて同町初の集落営農法人を設立しようというものだ。独自に詳細な営農実態調査や農地利用地図の作成、担い手の意見交換会などを実施。農地集約のために利用権の交換を仕掛けるなど、実績を積み上げている。
同町は球磨・人吉10市町村のなかで、唯一の非中山間地域。耕作放棄地も0.38%と低いが、農業委員会の石松まゆ子会長は「必死の努力で解消した結果。周囲は全部中山間地で、鳥獣害は深刻」と憤る。農業委員会の強い働きかけで、次年度からの中山間地域等直接支払制度の取り組みも進んでいる。
平野地区は農家戸数25戸のうち、担い手(認定農業者)は6戸。水稲やメロンなどの園芸作物が盛んだが、担い手の耕作農地が分散している。高齢化で離農が進み、このままではいっそうの分散錯圃が避けられない。
同町には12の集落営農組織(任意組織)があり、田中さんは県のモデル集落営農組織の設立に関わった経験から、平野地区でも組織化・法人化による農地の集約・集積が必要と考えた。
まず取り組んだのが実態調査と分析。農業委員会が毎年行っている意向調査結果を基に、自ら農家を回って全農家の年齢構成、農地所有と耕作状況、機械の保有状況、75歳以上の今後見込める「現役期間」など詳細な情報をまとめ、農地地図で利用状況を色分けした。
その上で昨年8月、担い手6人に呼びかけ、農業委員会事務局と地区選出の町会議員にも出席を求めて意見交換会を開催。調査結果を基に「10年後を担うのはあなたたちしかいない」と集落営農による法人化の必要性を訴えた。
担い手からは「まだ個々でやれる」と今後の課題になったが、直後に高齢農家が離農。飼料稲を栽培する畜産法人に集積したいが、また分散する上に主食用米の間に作付ける事になるため、耕種農家の農地と利用権を交換して法人の農地に集約。飼料稲、主食用米双方の作業性も高めることができた。
田中さんは「担い手の危機意識は薄いが、10年後を考えると意見交換会は毎年やりたい」と話す。
写真説明=「推進委員も農業委員と意識は同じだが、活動がより専門的になった」と話す田中さん(右)と山園琢磨事務局長