遊休化進む果樹園 住民全員で再生へ 長野市綿内東町地区

 長野市は全国有数の果樹産地だが、高齢化などに伴って果樹農家が減少し、遊休農地が目立ち始めていた。そこで、果樹産地を復興しようと、綿内東町地区では地元の農業委員などが中心となって農家負担ゼロの「農地中間管理機構関連農地整備事業」を導入。効率的に営農できる圃場に再整備し、生産性と収益性の高い果樹団地の形成を目指した取り組みを進めている。

地権者による換地区画同意調印会(写真中央が青木会長)

 今年3月に同市農業委員会会長に就任した青木保さん(71)は、当初から農業委員としてこの取り組みに中心的に関わってきた。「準備委員会の立ち上げから地域の皆さんの合意形成までに3年半かかった」と言う。4集落の全住民を対象に目的や意図を何十回も説明。地域の将来のことや、国の農地中間管理機構関連農地整備事業が地元負担ゼロであることを説明して説得にあたるなど、まさに人・農地プランの実質化の活動に取り組んできた。
 事業推進主体の実行委員会は2018年12月に設立され、会長には前農業委員の駒村和久さん、副会長には青木会長や地元の農地利用最適化推進委員の小林和彦さんなどが選出された。
 準備会立ち上げ時の地権者は約160人(530筆)だったが、農地の売買や相続などの整理で130人に集約された。基盤整備により一筆当たりの平均面積も3アールから約10倍の30アールに拡張整備する予定だ。

リンゴの果樹園が一面に広がる傾斜地に立つ青木会長                  

 同事業の総事業費7.5億円は、国、県、市が負担し、地元農家の負担はゼロだ。この事業の要件は、(1)事業対象農地の全てを農地中間管理機構に貸し出し、15年以上の農地中間管理権を設定すること(2)事業対象農地の8割以上を担い手に集積すること(3)事業エリアの合計農地面積が10ヘクタール以上であること――の三つで、合意形成により全てクリアできた。昨年5月に事業が採択され、台風19号災害の影響で着工が遅れたものの、本年秋から着手して計画どおり2022年春には定植できる予定だ。

 青木会長は事業の進捗状況を伝えるため、「綿内東町地区農地基盤整備だより」を作成し、綿内地区の全1500戸へ配布し続けている。
 青木会長は、「タイミングが良かった。傾斜地のため大規模農家が少なく、小規模ながら地区に認定農業者が多かったため担い手の要件は満たせた。国の新植に対する支援事業や未収益期間の支援事業も活用できる」と話す。
 基盤整備後は農薬散布と除草の自動化を図り、農作業の安全と効率化も確保したい考えだ。
 中山間地域の傾斜のある樹園地での大規模基盤整備は長野県でも初めての挑戦であり、全国でもまれなケースのため、全国のモデルとして注目を集めている。