市独自の「農地バンク」設立10年で82件の成果 大阪・八尾市農業委員会

 八尾市は大阪市に隣接し、人口約27万人を擁する中核市。農家数は975戸、農地面積は387ヘクタールで市域の9.3%を占める。担い手の減少や高齢化、遊休農地の増加が課題となる中、2010年6月に「八尾市農地バンク制度」の運用を開始。農業委員会と市が利用調整を行い、地域に密着した農地の貸借が進められている。

 八尾市農地バンク制度(以下、農地バンク)創設のきっかけは2009年の農地法改正に伴う遊休農地対策の強化。食料生産の減少や農業の持つ多面的機能の低下の危惧もあり、運用が始まった。
 農地バンクには貸し出し意向のある農地所有者と借り受け意向のある農業者などが登録し、農業委員会と市が利用関係の調整を行い利用権を設定する。制度創設からの10年間で、82件の成果を上げた。
 82件の実績のうち52件は2017年からの3年間で貸借されたもの。JA大阪中河内との連携により取り組みが加速した。同市農業委員会の村田法洋事務局長は「行政組織だと難しく感じる農業者も、日ごろ接するJAが間に入ることで安心するのでは」と話す。
 同JAでは、遊休農地対策として2017年に農地保全担当を置き、耕作困難や規模拡大意向の相談を受けている。目的を同じくする農地バンクに話をつなげることで、遊休農地の解消・発生防止に寄与している。

今年の栽培スケジュールを確認
楠本社長(右)と営農指導を行うJA大阪中河内の三谷周弘さん

 「昔は食料が豊富でなかった。また米が大切な時代が来る。若い人に米のありがたみを知っておいてほしい」と話すのは、同市で自動車部品などを製造する誓和工具(株)代表取締役社長の楠本正行さん(74)。昨年、農地バンクを活用して田17アールを利用権設定で借り受け、水稲を栽培している。
 借りた田は、所有者が高齢のため貸し出しの相談がJAに寄せられていた場所だった。楠本さんから相談を受けた同委員会がJAに連絡したところ、うまくマッチングでき、利用権設定に至った。
 現在2作目に取り組み、所有者とJAから指導を受けつつ社員とともに汗を流す楠本さんは、「稲の生命力の強さに感動する日々です。将来はいろんな苗や栽培の方法も試したい」とやる気に満ちている。
 村田事務局長は、「都市部では多様な担い手による農地保全が必要。楠本さんは地域と協調・連帯して営農しているので頑張ってほしい」とエールを送る。