農地を活かし担い手を応援 復興へ認定農業者組織と連携 福島県 広野町農業委員会

 福島県の太平洋沿いにある広野町農業委員会は、2011年の東日本大震災に伴う原子力発電所事故を受け、農地の除草や作付け再開に向けた除染、販路対策など、町認定農業者組織と連携し、農業の復興活動に取り組む。なかでもふるさと納税制度を活用した対策は、農業と町の復旧復興につながっている。

 同町は事故のあった東京電力福島第一原子力発電所から30キロ圏内にあり、2011年3月から全町民が避難。10月には避難指示区域から解除されたが、震災前の住民数5500人のうち帰宅した住民は少なく、今でも夜間人口は2千人程度だ。事故直後は農産物を作付けできず、その後も作付けを自粛せざるを得なかった。
 農地は雑草で荒れ、作付け再開のめども立たず、町の農業が廃れると考えた農業委員会は、町と協議を重ね、トラクターなどを町で用意し、農業委員と認定農業者が農地を除草した。行く末も分からない中での活動だった。翌年、町内24地区(約3ヘクタール)での試験栽培と同時に農地の除染も開始。放射性物質吸着を抑制するカリやゼオライトの散布、深耕などは農業委員や認定農業者が請け負った。除染の成果も見られ、2013年には全面的に作付け可能になった。
 新たな課題となったのが風評被害で、販売先確保は極めて困難だった。米は備蓄米で販路を確保したが、いつまでも継続するものではなく、農業委員会では協議を重ねた。2015年1月の総会で、ふるさと納税(寄付)の返礼品に農産物を活用する意見が出た。町と具体的な検討に入り、農薬などを抑えた特別栽培米と町産大豆を使ったみその贈呈を計画した鈴木利令委員(現農業委員会会長、55)の遠藤智町長への働きかけもあり、2015年3月の町議会で町長が「ふるさと納税の返礼に米を贈りたい」と表明。3月末には鈴木さんら農業委員を中心に11名の認定農業者で、21ヘクタール分の特栽米栽培を決めた。返礼品は3万円以上の納税で特別栽培米60キロとみそ750グラム。
 2014年度の同納税額約143万円が、2015年度はすでに2250万円を超え、北海道から沖縄県まで45都道府県から納税があり、予定数量に達し6月に受付終了するほど好評だった。昨年10月23日、町役場前でふるさと応援寄附金特産品出発式を行い、返礼品第1便を発送。精米や発送業務は認定農業者などで組織する企業組合ひろのが担い、今年2月にかけ順次発送する。町には礼状など励ましの声が届き、生産者の励みになった。納税による寄付金は町農業者への支援や、東日本大震災からの復旧・復興に役立てる。
 鈴木会長は「特別栽培米の生産者を募り返礼品の確保に努めるほか、町を代表する新たな特産品の開発など検討したい」と意欲を示す。

写真上=特別栽培米を生産する鈴木会長(中央)

写真下=ふるさと応援寄附金特産品出発式