大阪 吹田市農業委員会  農・教連携で学童農園 小学生が稲作体験

 吹田(すいた)市は人口38万人を擁し、全域が市街化区域に指定された都市地域。農地面積は51.63㌶で市域のわずか1.43%。農地が少ない環境ではあるが、小学校の半数以上が学童農園で稲作体験を授業に取り入れており、実施には農業委員会が一役買ってきた。

 吹田市で学童農園の取り組みが始まった契機は1999年に施行された食料・農業・農村基本法。農業に関する教育の振興が位置付けられたことを追い風とし、同市農業委員会の働きかけにより、「吹田市農業・教育連携協議会」が翌年に発足した。
 協議会は農業委員会、教育委員会、校長会、JA北大阪、市の5者で構成。授業への位置づけや予算措置など役割分担し、農業委員会が学童農園を実施する中で、最大のネックとなる農地の確保を担う。
 「児童が多く入ると畔が壊れることもあれば周辺道路が泥で汚れることも。段取りも大変なので当然断る農地所有者もいる」と語るのは農業委員会の吉田俊之(よしだとしゆき)会長。
 当初は七つの小学校のみの実施だったが、農業委員会による地道な協力農家の確保に向けた働きかけもあり、今年は市内36校中20校で実施する。60クラス約2千人の児童が田植えを体験した。協力農家には現職の農業委員はもちろん、元農業委員の姿も見える。

6月に9クラス261人が田植え体験した田口委員(右端)の田。吉田会長(中央)と橋本委員
田植え、稲刈りの後は小学校に精米が届けられ調理実習などに

 「小学生が田をのぞきにくる姿を見かけるようになった。子どもたちの中で何か変化が起きているんだと思う」と話すのは橋本家平(はしもといえひら)委員。地区で学童農園に協力していた農家が継続できなくなったため、今年から農地を提供して参画しており、これまでとの変化を感じている。
 父が当初から協力しており、現在は自身も携わる田口末次(たぐちすえつぐ)委員は「子どもたちは本当に熱心。お礼の手紙には草刈りしてくれてありがとうと書かれることもあるので、普段の作業もよく見られていますよ」と笑う。
 他にも近隣住民からの苦情やゴミ投棄の減少、かつて学童農園を体験した市民から声をかけられたエピソードなどもあり、「皆心のどこかに学童農園の思い出があり、農業への理解が育まれているのではないか」と委員たちは口をそろえる。
 一時は予算削減により学童農園事業は廃止の危機があったが、市民からの継続要望や農業委員会からの要請もあり、今日まで継続されてきた。
 吉田会長は「地域事情はさまざまだが、子どもたちの体験は大事にしてあげたい。農地所有者が高齢になっても継続できるよう、農業委員会全体でサポートする。都市部の農地、農業委員会が担う重要な役割ではないか」と話す。