新規就農者・移住者の確保へ 北陸初「特定地域づくり事業協同組合」を設立 石川・珠洲市農業委員会

 能登(のと)半島の最北端に位置する珠洲(すず)市は、「能登はやさしや土までも」と言われるように温和な風土で、湧き水・霊水(れいすい)・肥沃な大地があり、稲作を中心とした農業が行われている。一方で近年は人口減少や高齢化が加速し、新たな担い手の育成・確保が課題となっている。

 「人口減少でこのままでは集落が崩壊する」――そう危機感を抱いたのは同市農業委員の糸矢敏夫(いとやとしお)さん。新規就農者や移住者の確保が急務と考え、農地利用最適化推進委員の足袋抜豪(たびぬきごう)さんと協力し、季節によって働く事業者を変えることができる「珠洲市特定地域づくり事業協同組合」を北陸で初めて設立した。
 移住者の農業に関するニーズは高いものの、移住後の「仕事」が大きな課題となっていた。そこで組合が移住者などを無期雇用し、地元事業者に派遣することで移住者の安定した雇用と事業者の人手不足を解消することを狙う。
 組合の事務局長は糸矢さんが務め、足袋抜さんが経営する農業経営体(べジュール合同会社)は組合に登録し、新規就農者の受け皿となっている。その他組合には観光業、宿泊業、飲食業、食品製造業、小売業など10社の地元事業者が登録。 農業で年間を通じた仕事を得ることが難しい場合でも、例えば夏季は農業、冬季は食品製造業といったように、複数の事業者で季節ごとに働くことができる。足袋抜さんは「今後の課題は、農業事業者の組合員を増やすこと。移住者にとっては仕事と住まいはセットだ」と語る。

組合で雇用している新規就農者(中央)と足袋抜さん(右)

 現在組合では5人を雇用し、うち2人はべジュールで受け入れる。組合には今後3社の農業経営体が追加される予定で安定した新規就農者の受け入れを可能にする。移住者の住まいは市と連携を取り、移住相談のワンストップ窓口「すず里山里海移住フロント」がサポートする。条件を満たせば家賃補助制度などの支援を受けることができる。
 糸矢さんは「3~4年、このやり方で働いてもらい、その後は地域の後継者になってほしい」と効果に期待する。組合で無期雇用した後は、本人の希望や組合との話し合いにより派遣先に再就職、または独立することも可能とする。
 将来的に珠洲市で独立開業をめざす人を支援するため、勤務年数に応じて組合から独立支援金を支給する。市の助成金とあわせ仮に3年勤務した場合、約150万円の開業準備資金を受けとることができる。
 「この組合が良い入り口となり、今後独立就農する人や地域の担い手になってくれる人が増えることを期待したい」と足袋抜さんは今後の展望を語る。

【ことば】特定地域づくり事業協同組合制度=「地域人口の急減に対処するための特定地域づくり事業の推進に関する法律」(総務省)に定められる制度。地域の担い手を確保することを目的に組合が職員を雇用し、地域の仕事を組み合わせて事業者に職員を派遣するもの。