特定生産緑地指定へ制度を周知 都民の農業理解にと援農ボランティア 東京・稲城市農業委員会
稲城(いなぎ)市農業委員会(塩野清隆(しおのきよたか)会長)は、生産緑地の指定から30年を迎える2022年に向けて、市やJAと連携し特定生産緑地制度の周知活動を進めてきた。さらに市民の都市農業への理解を深めるため援農(えんのう)ボランティア制度を推進するなど、都市農地の保全に向けた多様な活動を行っている。
稲城市は、都市地域にあって多くの農業者が贈答用のナシやブドウを生産する果樹の産地となっている。
一方で高齢化による労働力不足や相続による農地の減少など課題を抱えている。こうした課題を踏まえ、同市では農業委員会を中心に、減りゆく都市農地の保全に向けた活動に取り組んでいる。
1992年、三大都市圏の特定市街化区域内農地は生産緑地法の一部改正により生産緑地に指定するか、しないかの選択に迫られた。生産緑地に指定されると税制などの優遇措置が受けられるが、指定から30年が経過すると特定生産緑地の指定を受けないと、その措置が継続されなくなる。
稲城市では特定生産緑地制度への指定に向けて制度を知らずに指定期限を迎える生産緑地所有者をつくらないために周知活動を続けた。
具体的には、農業委員会と都市計画課(現・まちづくり計画課)、課税課、JA、都農業会議が協力し計5回の説明会を開いた。また地域の農業者の集まりなどでも農業委員が中心となり制度の説明を行った。
不確実な情報が流れ不適切な判断を迫られる可能性もあることから早い段階で家族と話し合い、慎重に検討することを周知徹底した。
2020年以降は、特定生産緑地未申請の農業者に対し農業委員会と都市計画課(現・同)が協力し戸別訪問を行い、市内すべての生産緑地所有者の意向を確認した。
その結果、22年11月末時点で同年に指定期限を迎える90%以上の対象農地が特定生産緑地を選択するなど成果を上げている。
また同市農業委員会は、市内農業の魅力発信に向けた活動にも力を入れている。同市は、農業者と市民の協働をめざし援農ボランティアを育成し農業者の労働力の確保などにつなげることを目的に「いなぎ農業ふれあい塾」を開講している。
17年より開講し、座学や農地での実習を通して援農ボランティアとして活動するために必要な知識や技術を習得することができ、これまでに48人が講座を修了し、市内農業を支える貴重なサポーターとして活躍している。
塩野会長は「各関係機関と協力し、多くの農業者に特定生産緑地を選択してもらうことができた。都市農地を保全するには制度面だけでなく地域での理解も必要となるので、引き続き援農ボランティアの養成活動を広げていきたい」と話した。