遊休農地を参入企業へあっせん 滋賀・草津市農業委員会

 草津市農業委員会(中野隆史会長)では、農業委員と農業委員会事務局が連携し、遊休農地や保全管理農地の地主6人と新たに農業事業に挑む地元企業との間を取り持って農地をあっせん、集積を進めた。背景には、優良農地を次世代に残すという強い思いがあったからだ。

 滋賀県の南部、琵琶湖畔に位置する同農業委員会の堀井信一農業委員(69)は2022年、担当する南山田区域の遊休農地や保全管理農地の合計3千平方㍍を、地元で自動車エンジン部品を製造する㈱メタルアート(友岡正明社長)の子会社で農地所有適格法人の㈱メタルヴィレッジ(大石学社長)にあっせんした。同社は、製造業で培ったものづくりのノウハウを活かし、近接する約1万8千平方㍍の農地とあわせ、西日本最大級のイチゴのハウス栽培を開始。生産と販売だけでなく、加工も視野に入れた取り組みを進めている。
 同地域は、昭和40年代に公共投資で整備した灌漑施設の充実した畑作地帯だが、年々高齢化と後継者不足から担い手が減少。地元懇談会でも「優良農地を次世代に残せない」「耕作者も減っていく中、数年もすれば管理すら危うくなる」と憂慮する農家や地主が増えつつあった。堀井委員は地域への思いから、優良農地を残し、担い手に引き継ぐ方法を模索していた。
 そうした中、同農業委員会に事業多角化と働き方改革の充実をめざす友岡社長から「イチゴ栽培が可能な一団の農地を探してほしい」という相談が届いた。これを受けて、同農業委員会事務局と連携し一般企業の農業参入を受け入れ、農地のあっせんについて検討が進められた。土地改良区の役員として地元からの信頼も厚く、そして自身もほりい農園を経営する認定農業者としての立場や経験を伝えたことが功を奏して、地主6人とメタルヴィレッジの交渉も円滑に進み、同年に農地の所有権移転が決まった。

所有権移転後、メタルヴィレッジが建てたイチゴ栽培ハウス

 地域の優良農地を守るため、さまざまな人たちと相談を重ねたが、苦労も多かったという。堀井委員の周囲では、一般企業の農業参入や農地のあっせんの例が少なかったことから「なぜ、農業委員が一般企業に対してそこまで熱心に農地あっせんをするのか」と危ぶむ声を耳にすることもあった。しかし、うわさに動ずることなく「優良農地を将来に残すことは農業委員の本分。迷うことはなかった」という強い使命感をもって企業参入と農地あっせん、集積を推し進めたと堀井さんは話す。
 同農業委員会事務局の相井義博(そういよしひろ)事務局長は「地域農業の維持・発展の観点から、遊休農地の解消と新規就農の促進は重要なことであり、堀井委員は将来を見据え、強い意志で農業委員会の任務を進めてもらった」と語る。

連携して企業の新規参入と農地あっせん、集積を進めた堀井委員(右)と相井局長
イチゴの生産と販売、加工に取り組む大石社長