工業化進む中で目標地図の素案 熊本・菊陽町農業委員会

 世界最大級の半導体受託製造企業、台湾積体電路製造(TSMC)の工場建設が進む熊本県菊陽町。関連企業も多く進出し、工場や住宅などの用地確保が大きな課題となっている。農地転用や農地の利用権の解約が頻発するなか、同町農業委員会では担い手への農地の集積・集約をめざす「地域計画」の前提となる10年後の「目標地図の素案」をモデル地区で作成。計画の必要性とともに、課題も浮き彫りになった。

建設が進む半導体工場

 熊本平野にある同町はほぼ全域が平地。1400㌶の農地の約8割が基盤整備されている。特産のニンジンとスイートコーンなどを組み合わせた営農体系で、農地利用率も高い。高齢化は進んでいるが、耕作放棄地はほとんど見られない。
 農業が基幹産業のこの町に近年、開発の波が押し寄せている。政令指定都市の熊本市に隣接し、人口増加率は全国トップクラス。豊富な水資源や空港、高速道路などの交通の利便性が高く、災害が少ないことから企業進出も相次ぐ。7月1日時点の基準地価(全用途)は前年が11.9%、今年は15.6%上昇した。
 昨年度の農地転用面積は11㌶。町内の大部分が市街化を抑制する市街化調整区域であるため、同じ開発の波に揺れる近隣自治体に比べて多くはないが、農業委員会には問い合わせが殺到している。半導体事業という国家的プロジェクトが進む中、「農業と工業のバランスをいかに取るかが課題」(村上学係長)だ。

鉄砲小路地区の農地所有者意向別目標地図素案

 農業を取り巻く環境が激変する中で、同町の地域計画づくりはどう進められていくのか。
 農業委員会では2021年度に、いち早く計画の方向性を探ろうと、鉄砲小路(てっぽうこうじ)地区(7㌶)をモデル地区に、現在の目標地図の前身となる地図を作成した。ここでの結果を踏まえて町内全域での作成を進める計画だが、法人など一部を除いて現状維持の意向が強かった。
 地権者・耕作者の全員と意見を交わした農業委員会の眞弓一保(まゆみかずやす)会長(70)は「高齢化と開発の進展を考えると、10年後を見据えた農地の集積・集約は必要」と、担い手自身の意識改革の必要性を訴える。

鉄砲小路地区で眞弓会長。同地区でも道路建設が計画されている