農地を活かし担い手を応援する 第2部 農地利用の最適化(34) 復興牧場開設を支援 福島市農委会

 東日本大震災から間もなく丸5年。東京電力福島第一原発事故で休業を余儀なくされていた酪農家たちが昨秋から、福島市吾妻地区に新たに建てられた牧場で搾乳を始めた。福島市農業委員の宍戸薫さん(61)は関係機関と協力して牧草地確保などを後押し、24ヘクタールの利用集積に結びつけた。
 酪農を再開したのは南相馬市と飯舘村、浪江町の30〜50代の5人。2014年4月に「(株)フェリスラテ」(幸せの牛乳)を設立し、新牧場の稼働準備を進めてきた。敷地はJA新ふくしまが出資する法人の旧所有地3.6ヘクタールで、県酪農協がそこに搾乳牛600頭余りの施設を約16億円の事業費で建てた。
 宍戸さんたちは巨大牧場を誘致することの是非から調整に関わった。「人より牛の方が数が多くなり、臭いやハエの発生が心配なほか、既存の酪農家もありましたから」と宍戸さん。国の試験場を視察して環境対策を学習。雨水対策も講じるなどで地元の理解を深めていった。その間、農業委員会(守谷顯一会長)は農政課と連携して農地貸し出しの意向調査などに取り組んだ。
 牧場経営には草地が不可欠。フェリスラテは「200ヘクタール以上」を求めた。そこで長年遊休化していた周辺の桑園などを農地として再生することも併せて実施することにし、新牧場建設を地域に了解してもらった。
 2014年10月には地区に遊休農地対策協議会を設立。草地として利用する予定の耕作放棄地を国の交付金事業で再整備するとともに、農地中間管理機構を活用して酪農家に集積していく趣旨や手順を説明した。しかし説明会に出席しない地権者もいて、宍戸さんたち協議会幹部が何度も訪問して説得に当たった。
 「未相続農地が2〜3割もあり、連絡などで苦労しました。町内会や環境保全会など地域のみなさんの協力が大きかった」と宍戸さん。2015年2月、フェリスラテが購入した一部介在農地も含め約24ヘクタールが受け手3人に利用集積された。地権者は90人に及んだ。
 「復興牧場」と命名された新鋭農場は昨年10月から稼働した。年間5千トンを生産し、福島全体の復興拠点となることが期待されている。宍戸さんは「復興牧場はみなさんの協力のたまもの。ぜひ成功してほしい」とエールを送る。

写真説明=農地の集積図を前にした宍戸さん