アグロエコロジー世界に広がる

「良いものを作れることに幸せを感じます」と話す早川さん       

 大規模で工業的な農業に代わる、「アグロエコロジー」という考え方が世界で支持を得ている。生態系に配慮した農業の実践やそれを実現するための社会運動を表す。環境への負荷を減らす有機農業の考え方が発展したもので、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の理念にも通じる。宮崎県綾町では、この考え方に共通する、長年にわたる活動が注目を集めている。

 同町は環境の保全を目指し、1970年代から独自に「自然生態系農業」(有機農業)を推進してきた。現在は町内の約300戸が同農業を実践する「有機農業の町」だ。4ヘクタールで早川農苑を経営する早川ゆりさんは、「愛する人には本当に良いものを食べてもらいたい」という思いを胸に同農業に打ち込み、町を引っ張ってきた。
 同町は1988年に、同農業を推進するための条例を制定した。条例では同農業を、(1)化学肥料や農薬などの合成化学物質を使わない(2)土などの自然生態系を取り戻す(3)食の安全と健康を保持し、遺伝毒性を除去する(4)遺伝子組み換え作物を栽培しないものと定める。
 1989年には県の試験場や有識者とともに同農業の認証基準を策定。農地の管理状況と栽培時の農薬や化学肥料の使用状況に基づき、金、銀、銅の3段階で農産物を格付けする。
 また、町内の畜産団地の糞尿、一般家庭も含む全戸の生ゴミやし尿を回収し、堆肥や液肥として利用する。1980年代に専用の処理施設をそれぞれ整備し、資源の循環を実現している。
 同農業が生まれたきっかけは、1973年に当時の町長が「自分の健康は自分で守ろう」と町民に勧めた有機農産物の「一坪菜園」。ただし、地域の農業者に浸透するには時間がかかった。
 早川さんは愛知県名古屋市出身で、会社経営から就農して28年目。就農した当時は町内で同農業を始める人はおらず、周囲の理解を得るのに苦労したという。逆境の中、町の後押しを受けて同農業に励み、今では町を代表する農家として活躍する。早川さんに続く形で、町内に同農業の実践者が増えてきた。「就農する時には反対もされましたが、後悔はありません。良いものを作れることに幸せを感じています」と笑顔を見せる。

 環境に配慮した農業やそれを求める社会的な動きとして、世界で広がりをみせているのがアグロエコロジーという概念だ。世界各地で社会運動として発展する中でさまざまな捉え方をされているが、国連食糧農業機関(FAO)はこれらの共通点を「10の要素」としてまとめている。
 国際社会では1970年代頃から、農薬などを大量に使う大規模企業型農業による土壌汚染や小農民との貧富の差が問題化した。有機農業の振興を皮切りに、環境や地域社会に配慮した持続可能な農業を求める動きが続いてきた。
 アグロエコロジーはこの流れをくみ、工業的な農業の代替案を探るもの。元は農業に生態学の視点を取り入れる学問用語だったが、1980年代から社会的な意味を持ち始めた。
 FAOは、2018年に国際アグロエコロジーシンポジウムをローマで開き、「アグロエコロジーは健康で持続可能な食料システムに貢献できる」として、「世界中でより多くの政府の関与が必要」と各国の政府に支援を求めた。ブラジルやキューバなどの中南米諸国をはじめ、欧州諸国でも実際にこうした考え方が政策に導入されている。